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対面 ページ21

「俺の優しさは、誰かの為の優しさなんかじゃない。最初は同情、今は愛着。誰にでも優しくできるわけじゃないんだ。俺のはたぶん、自己満足」


自分が、そうしたいと思ったから。誰かの為にやることじゃなくて、自分の為にやったこと。太一さんはそう言うと、こんな俺、嫌になる? と儚く笑った。


岩泉さんの話、太一さんの話。それらを通して気がついたことがある。
優しさなんていうのは、大概が自己満足であるということ。そしてその自己満足が、時には他人を救うこと。
それが普通だ。普通だけど、たぶん、大切なことだ。


「……嫌になんか、ならない。いつもいつも、感謝してる」


何を疑っていたんだろう。この人が私に優しいのは昔からのことで、それを素直に受け取らなかったのは私の方だ。
私はいつも、当たり前のことさえ気がつけない。


「……そ、か。よかった、」


ふわ、と頭を撫でた太一さんは、安堵の表情を浮かべている。それくらい大切に思ってくれてるんだって、そう思ってもいいのかな。ぐっと唇を噛み締めた。
太一さんが携帯から電話をかけている間に、三人分の麦茶を用意した。キンキンに冷えた麦茶に氷を入れれば、軽快な音が部屋に響く。


「…はあ? お前、結構遠くまで行ったな。うん、大丈夫、戻ってきてるよ。おう、待ってる」


聞けば、かなり遠くまで探しに出たらしく、父が戻るのには三十分はかかりそうとのこと。


「アイツな、奈緒子がいないって血相変えて飛び出てったんだよ。太一はここで奈緒子のこと待っててくれって、帰ってきたら連絡くれって飛び出してから数分後に電話かかってきてさ。らしくないよな、いつもならもっと冷静なのに。だから奈緒子、パパにちゃんと謝れよ」


――信じられなかった。
私と目を合わせようとしなかった父が、取り乱したところなんて一切見せなかった父が、私を探しに家を飛び出したなんて。
「うん」と答えて、細く深呼吸をした。カランと麦茶の注がれたグラスの中で氷が鳴る。


数年。数年かけて、やっと向き合おうと思った。父とも、太一さんとも、母の死とも。


玄関の扉を、開く音が聞こえた。
 
 
 

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エリウ - めちゃくちゃ感動しました、その作品を作ってくれてありがとうございます!! (2021年5月29日 20時) (レス) id: 69d516a85e (このIDを非表示/違反報告)
志織(プロフ) - すずさん» 父と娘、という題材で書かせて頂いたのは初挑戦だったので、泣けるというご感想を頂けて本当に嬉しく思います。この作品を見つけて、コメントまでして頂いて、本当にありがとうございました! (2018年11月11日 9時) (レス) id: f90efcc153 (このIDを非表示/違反報告)
すず - 最近見つけて読ませていただきました。めちゃくちゃ泣けました! (2018年10月29日 17時) (レス) id: c7b6d2922b (このIDを非表示/違反報告)
志織(プロフ) - りょうさん» 父娘ものって本当に難しい…!と思いながらキャラクター達の葛藤を執筆していたので、「素敵だ」と言って頂けて感謝しかございません。自分の書く文を好きと言ってもらえて、嬉しくない人はいないと思います。閲覧ありがとうございました! (2018年1月8日 15時) (レス) id: f90efcc153 (このIDを非表示/違反報告)
志織(プロフ) - あるてぃめっつさん» コメントありがとうございます!これでいいのかなと頭を悩ませて執筆した作品ですので、「伝わった」というお声を頂けて安堵しております。感動して頂けたのならこれ以上ないくらい、書き手として最高なことです。こちらこそ、閲覧して頂きありがとうございました! (2018年1月8日 15時) (レス) id: f90efcc153 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:志織 | 作成日時:2017年11月3日 14時

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