虚妄 ページ14
今日は朝から体が怠かった。休日なのが幸いで、目覚めてからお昼近くまでベッドの中で過ごした。
のそりと起き上がった。白いカーテンの隙間から白くてあたたかい光が射し込んでいる。それに反して、胸の内は酷く冷めきっていた。
――父の笑顔はとても柔らかなものだった。毎日のようにあの頃と現在を夢と現実で行き来しているから、起きることに落胆する自分がいる。何度かアルバムをみようかと棚に手を伸ばしたけれど、結局辛くなるのはわかっていたのでやめた。
……いつまで、
いつまで、こんなふうに生きていくんだろう。地に足つけず、どこに向かうのかも定まっていないのにただただもがいているような感覚。その苛立つような感覚をぐっと喉の奥に押し込めて、床に足をつけた。堅い床に素足がひんやりとする。
昔は休日もよく出かけていた気がする。遊園地、水族館、動物園、科学館。その記憶は全てが鮮明に思い出せるわけではないけど、三人で手を繋いで歩いていたことだけは忘れたことがなかった。
いい加減、夢見すぎ。現実見なよ。
いつだったか、友達に言われた言葉だ。
これは母が亡くなる随分前に言われた言葉だし、意図は全く違うけれど、それでも数年越しの私に重くのしかかった。
昔はファンタジーが大好きだった。お菓子のお城も魔法使いも、全部全部本当のことだと信じて疑わなかった。結果、幼さも相まって私に付き合いきれなくなった友人が発した言葉だ。今はもう別々の所にいる。今後会うこともないだろう。
その友人の言うことは、正しかったのかもしれないと今になって思う。ファンタジーなんてクソ喰らえ。だって魔法使いが颯爽と現れる世界なら母は救われていた。私の家族の笑顔だって、守られた。そしてそれは、所詮フィクションでしかない。
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エリウ - めちゃくちゃ感動しました、その作品を作ってくれてありがとうございます!! (2021年5月29日 20時) (レス) id: 69d516a85e (このIDを非表示/違反報告)
志織(プロフ) - すずさん» 父と娘、という題材で書かせて頂いたのは初挑戦だったので、泣けるというご感想を頂けて本当に嬉しく思います。この作品を見つけて、コメントまでして頂いて、本当にありがとうございました! (2018年11月11日 9時) (レス) id: f90efcc153 (このIDを非表示/違反報告)
すず - 最近見つけて読ませていただきました。めちゃくちゃ泣けました! (2018年10月29日 17時) (レス) id: c7b6d2922b (このIDを非表示/違反報告)
志織(プロフ) - りょうさん» 父娘ものって本当に難しい…!と思いながらキャラクター達の葛藤を執筆していたので、「素敵だ」と言って頂けて感謝しかございません。自分の書く文を好きと言ってもらえて、嬉しくない人はいないと思います。閲覧ありがとうございました! (2018年1月8日 15時) (レス) id: f90efcc153 (このIDを非表示/違反報告)
志織(プロフ) - あるてぃめっつさん» コメントありがとうございます!これでいいのかなと頭を悩ませて執筆した作品ですので、「伝わった」というお声を頂けて安堵しております。感動して頂けたのならこれ以上ないくらい、書き手として最高なことです。こちらこそ、閲覧して頂きありがとうございました! (2018年1月8日 15時) (レス) id: f90efcc153 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:志織 | 作成日時:2017年11月3日 14時