諦念 ページ12
ピンポーン、とインターホンが鳴り響く。
玄関の様子を映し出す画面には、太一さんが手に袋を下げて扉が開けられるのを待っていた。かちゃんと鍵を回して扉を開けると、太一さんはひょいと片手をあげた。
「夜ご飯は食べた？」
「……えと、これから」
「作る」
溜息をついた太一さんは、くしゃりと私の頭を撫でると中へ入っていった。
どうしてこんなにも気にかけてくれるのだろう。友人の子供という、血縁者でもなんでもない、言ってしまえば他人を。情け、だろうか。優しくされるたびに、申し訳無さで窒息してしまいそうになる。
「出来たら呼ぶから好きなことしてていーよ」
「……うん、ありがとう、太一さん」
どうして私に優しくしてくれるの。
言いたい言葉はつっかえて音にならず、乾いた呼吸音だけが空気に馴染んだ。振り返った太一さんは不思議そうな顔をしている。
「今、なんか言わなかった？」
「いや、言ってないけど」
そう、と短く答えた彼は、手慣れたようにキッチンの壁に掛かっているエプロンを身に着けた。
︙
私がご飯を食べ終わるのを見届けてから、太一さんは家に帰った。作り置きのご飯が冷蔵庫に入れられている。食欲がなくてもきちんと食え、元気がなくなる。そう私にお説教をして、そのあとにどうしても無理そうならお菓子を買っておいたから、と悪戯っぽく笑った。
それから一日経って、父が帰宅する日。お出迎えしなきゃ、今日のご飯はどうしよう。そんなことを考えながらソファーに寝転がった。
オレンジの明かりは眩しかったが、目を閉じれば瞼の裏を明るい色で染めてくれた。眠気を誘われるような暖色に、いつの間にか寝てしまったようだった。
さわさわ、と前髪がかき分けられ、整えられる。ああ、またこの夢か。お母さん、と呟けば手はピタリと止まって、それからぎこちなく頬を撫でた。
キッチンからかちゃかちゃと食器の音がして飛び起きる。既に父は帰ってきていて、晩御飯の用意をしていた。
「……お、かえりなさい。ごめんね、用意してなくて」
「別に。それよりもお前、女の子なんだから寝る時は腹冷やさないように毛布くらいかけろよ」
「うん、ありがとう」
ご飯を用意しながらの会話。やっぱり、目が合うことはなかった。
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エリウ - めちゃくちゃ感動しました、その作品を作ってくれてありがとうございます!! (2021年5月29日 20時) (
レス) id: 69d516a85e (このIDを非表示/違反報告)
志織(プロフ) - すずさん» 父と娘、という題材で書かせて頂いたのは初挑戦だったので、泣けるというご感想を頂けて本当に嬉しく思います。この作品を見つけて、コメントまでして頂いて、本当にありがとうございました！ (2018年11月11日 9時) (レス) id: f90efcc153 (このIDを非表示/違反報告)
すず - 最近見つけて読ませていただきました。めちゃくちゃ泣けました！ (2018年10月29日 17時) (レス) id: c7b6d2922b (このIDを非表示/違反報告)
志織(プロフ) - りょうさん» 父娘ものって本当に難しい…！と思いながらキャラクター達の葛藤を執筆していたので、「素敵だ」と言って頂けて感謝しかございません。自分の書く文を好きと言ってもらえて、嬉しくない人はいないと思います。閲覧ありがとうございました！ (2018年1月8日 15時) (レス) id: f90efcc153 (このIDを非表示/違反報告)
志織(プロフ) - あるてぃめっつさん» コメントありがとうございます！これでいいのかなと頭を悩ませて執筆した作品ですので、「伝わった」というお声を頂けて安堵しております。感動して頂けたのならこれ以上ないくらい、書き手として最高なことです。こちらこそ、閲覧して頂きありがとうございました！ (2018年1月8日 15時) (レス) id: f90efcc153 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：志織
| 作成日時：2017年11月3日 14時
