所帯 ページ11
「川西くんも飲めよー？」
「ウス」
ガヤガヤと賑わう座敷の隅で、ちらりと携帯を確認した。帰り、寄っていった方がいいかもしれない。白布は二日間の出張だというから、きっと一人じゃ寂しいだろう。
――きちんと、ご飯を食べているだろうか。あの子一人だとあまり食べたがらないから心配だ。帰り、何か食材を買っていこうか。作り置きでもしておけば随分楽になるはず。掃除とか、洗濯とか…
って、馬鹿かよ。
頼まれてもないのに他人の家の子にそこまで介入していいものだろうか？ いくら、親友といえども。
もちろん、繋がりは大切だ。親友という立場にあるから多少踏み込んだこともできるのかもしれない。けれど限度はある。結局は他人の家のことで、本人達が解決しなくてはいけない話だ。俺は適度な距離で見守るしかない。
「よー川西、飲んでるー？」
「食ってる。アルコールに強い奴は羨ましいな、照島」
高校時代、何度か試合をしたことのある条善寺の主将。不思議な巡り合わせではあるが、会社の同僚だ。
相変わらず陽気な態度で俺の隣に座り込む。酒の匂いが一層強まった。
「俺途中で帰るかも。お前うまいこと言っといてくんない？」
「あー、水原さん面倒くせーもんな。つーかまた白布の娘んとこ？」
「おう。白布が今出張中だからあの子一人なんだよ」
「えっマジ？ 俺も行こっかなー」
「なんでだよ」
事情は何も話していない。俺があの子を可愛がっている、そういうことになっている。
もちろん可愛がっているとは思うが、事情が事情だ。可愛い可愛くない以前の話。
「でもよ、お前そろそろ結婚しねーと。もう俺ら三十路だぜ」
「俺は別に独身でもいい」
「そっかぁ。でもいいもんだぜ、所帯持ちって」
そう言って笑う照島は酷く幸せそうだった。
あの父娘も、こんなふうに笑いあえればいいのに。そう思うと溜息をおさえられなかった。せめて、あの子が母親似だったなら。愛情表現が下手くそな白布と結婚したあの子の母親はとても器用な人で、不器用な白布とはバランスが取れていたように思う。
不器用と不器用。父親に似たあの子が愛に気が付きますように、と密かに願った。
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エリウ - めちゃくちゃ感動しました、その作品を作ってくれてありがとうございます!! (2021年5月29日 20時) (
レス) id: 69d516a85e (このIDを非表示/違反報告)
志織(プロフ) - すずさん» 父と娘、という題材で書かせて頂いたのは初挑戦だったので、泣けるというご感想を頂けて本当に嬉しく思います。この作品を見つけて、コメントまでして頂いて、本当にありがとうございました！ (2018年11月11日 9時) (レス) id: f90efcc153 (このIDを非表示/違反報告)
すず - 最近見つけて読ませていただきました。めちゃくちゃ泣けました！ (2018年10月29日 17時) (レス) id: c7b6d2922b (このIDを非表示/違反報告)
志織(プロフ) - りょうさん» 父娘ものって本当に難しい…！と思いながらキャラクター達の葛藤を執筆していたので、「素敵だ」と言って頂けて感謝しかございません。自分の書く文を好きと言ってもらえて、嬉しくない人はいないと思います。閲覧ありがとうございました！ (2018年1月8日 15時) (レス) id: f90efcc153 (このIDを非表示/違反報告)
志織(プロフ) - あるてぃめっつさん» コメントありがとうございます！これでいいのかなと頭を悩ませて執筆した作品ですので、「伝わった」というお声を頂けて安堵しております。感動して頂けたのならこれ以上ないくらい、書き手として最高なことです。こちらこそ、閲覧して頂きありがとうございました！ (2018年1月8日 15時) (レス) id: f90efcc153 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：志織
| 作成日時：2017年11月3日 14時
