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あれ以来矢巾は私のことを結子と名前で呼ぶようになった。あまりにも自然で、一瞬頭がついていかなかった。それから、沸騰したみたいに体が熱くなった。どうしてだろうか。
じんわりと湿り気を含んだ暑さが体にまとわりついて離れない。逃げ込むように選択教室に入れば、今度は打って変わってキンキンと冷えた部屋に思わず身震いした。
「佐原、今日は宿題やって来た？」
「もちろんだよ渡」
前の席から柔らかな声が聞こえてきて、申し訳なさから思わず体を縮こまらせた。前回の授業時に忘れたのを、写させてもらったのだ。普段はきちんとやってくるが、その日はなぜか忘れてしまったのだった。
他人が時間をかけてやったそれを、自分は半分の時間で済ませてしまうのがとても悪いことをしているような気分になるのだ。
「佐原は偉いな」
「そうかなあ、普通だと思うんだけど」
「その普通ができない人はいっぱいいるんだよ」
佐原はしっかりしてるね、と渡は笑った。
︙
「矢巾の先輩…松川さん、だっけ」
「いきなりなんだよ」
お昼休み、ふと思い出したのは大人びた雰囲気のあの先輩だった。矢巾とは対照的だなぁと、じいっと彼の顔を見つめる。可愛らしい、いかにも年上受けしそうな雰囲気。
「いや、かっこよかったなあって思って。ああいう人って女子の憧れだよね」
「…は？」
「でも矢巾もかわいいね」
「ハァ？」
素直な感想をこぼせば、矢巾はこれでもかというくらい眉間に皺を寄せた。初めて見る表情かもしれない。男の子特有の威圧感に思わずたじろぐ。
「……有馬は笑顔がグッとくるよな」
「…？ そうだね」
「彩は脚がきれい」
「そっか」
「宮崎さんは眼鏡つけてる時と外した時のギャップがイイ」
「よかったね」
「……お前、そればっか」
「……え、ッ！」
ぐいっとネクタイを引っ張られる。いつもみたいなかわいらしさの一切を取り除いた、鋭い目つきに射抜かれて硬直。冗談じゃない、誰がこんなオスみたいな顔をさせた？
「男はかわいいなんて言われたって嬉しくねぇし」
「え、ごめん…」
「松川さんがかっこいいのはわかるけど、俺の前でそういうの言っちゃう？ わざと？」
「そんなこと」
「あーもうめんどくせ」
がたんと椅子を鳴らして立ち上がった矢巾は、そのまま教室を出て行く。初めてキレられた。そう思って唖然としていた私は、去り際に矢巾が「路線変更だな」と呟いていたことを知らない。
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志織(プロフ) - あるてぃめっつさん» 矢巾くんの作品まで読んでいただけて嬉しいです…！思わずきゅんとできるような作品を作っていきたいと思っております。ご読了ありがとうございました！ (2017年12月4日 22時) (
レス) id: f90efcc153 (このIDを非表示/違反報告)
あるてぃめっつ(プロフ) - すごく今更感がありますがこちらも読みました…！矢巾くんいけめんすぎてしんどいです…(笑)これからもあなた様の作品できゅんきゅんさせてもらいます。 (2017年12月4日 21時) (レス) id: 3614360162 (このIDを非表示/違反報告)
志織(プロフ) - 蜜柑の皮。さん» 閲覧ありがとうございます！私も矢巾くんを推しているのですが、あまりに小説が少ないので今回書こうと決心致しました（笑）かっこよく書けているのなら幸いです。応援ありがとうございます！ (2017年10月23日 23時) (レス) id: f90efcc153 (このIDを非表示/違反報告)
志織(プロフ) - ゆゆさん» コメントありがとうございます！作品に出会えてよかった、そんな風に言って頂けるなんて書き手冥利に尽きます…！閲覧ありがとうございました！ (2017年10月23日 23時) (レス) id: f90efcc153 (このIDを非表示/違反報告)
蜜柑の皮。(プロフ) - 矢巾くんの小説って珍しいですね！私は密かに国見くんと赤葦などを推しつつ、矢巾くんも推してたのでめちゃくちゃ嬉しいです！これからも応援してます！矢巾くんのかっこよさがやばい… (2017年10月23日 22時) (レス) id: 37e5c1fab4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：志織
| 作成日時：2017年10月23日 8時
