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ヒャクジュウシチ、隣に。 ページ21

「――なるほど。安心して、菅原。検討はついてるから、今から影山を迎えに行く。それじゃあ」


鉄の板越しに声を発し、菅原にそう伝えた清水は、「あなたにもついてきてほしい」とこちらに向き直る。もちろん、俺はそのつもり。そう伝えれば少しだけ頬が緩んで、ありがとうとお礼の言葉が形の良い唇から紡がれる。


「イケジリ、なるべく戦闘にならないようにね」
「わかってる。でも清水、護符は持っていけよ」
「ええ、そうする。――行こう、華に近道を通して貰わなくちゃ」


そう言って清水は前を向く。行けども行けども一本道、ここはヒトロク町。俺はこの町が案外好きだったりする。
石畳と下駄がぶつかり合ってカラコロと綺麗な音を響かせる。俺はもう何百年もこの音を聞いてきたからなれてしまったけれど、あの子に聞かせた時は、あまりに嬉しそうな顔をするものだから、とても特別な音だと思ったのだった。


「清水はさー、綴にあったんだよな?」
「うん、あったよ。この前一緒にご飯に行きませんかって、メールももらったし」
「えっ俺も行きたい」
「だめ。女の子だけで行くんだから」
「うっ……そうなのか……」


少しだけ清水がやわく微笑んだような気がして、息が詰まる。視えるから辛い思いをしてきただろう清水は、今はもうこんなふうに優しい笑顔を浮かべている。あの子は、綴は。ちゃんと笑えているだろうか。……笑えているよな。あの花巻とかいう男は、どう考えても綴に目をかけている。他の誰が綴を嫌おうと、彼だけは味方になってくれるだろう。本当なら、俺が隣にいたい。隣で、二人して笑っていたい。あの頃みたいに。でもそれじゃあ駄目だ、あの時の二の舞いだ。俺は土地を転々とするし、それについてこれるような人間もいない。きっと人間の隣にいるのは人間が相応しくて、俺みたいな妖怪は、見守れるだけ良いのかもしれない。


「……清水、」
「なに?」
「人間の隣に妖怪がいるのは、おかしいのかな」


綴や澤村。烏野のやつら、清水達。
側にいたいと、思ってもいいのかな。


「…なんでおかしいと思うのかは知らないけれど、あの子の隣には今、あの子を守ろうとしてる妖怪がいるよ」
「! ……そうか、」


よかった。
思わず漏れた安堵のため息は、本物だ。隣にいるのが俺でないのは、寂しい。けれど、俺ではだめだから、あの子を守ってくれる妖怪がいるのなら、喜ばしい。


「いつでも、会いに行けばいいよ」


呟いた清水に、ひとつ頷いてみせた。
 

ヒャクジュウハチ、相違に惑う。→←ヒャクジュウロク、他人を想う。



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藤猫 - 終わりなんですか?!続きがすっごい気になるんです!どうか続きを書いてくださいませんか?!楽しみに待ってます!! (2021年8月9日 14時) (レス) id: 8264cf3ee7 (このIDを非表示/違反報告)
ノウ - 終わりですか?! 続きがすごく気になります! (2021年6月30日 1時) (レス) id: 208a367e6d (このIDを非表示/違反報告)
織叶(プロフ) - 志織さん» そうだったんですね…!!志織さんの丁寧な描写が大好きなので、続くということが知れてほんとうにうれしいです!!いつまでも待てます!!これからもずっとずっと応援させてください!!! (2021年1月30日 8時) (レス) id: bc2d105faa (このIDを非表示/違反報告)
志織(プロフ) - 織叶さん» お付き合い下さると嬉しいです。いつも私の作品を見てくださってありがとうございます!(*´∀`*) (2021年1月30日 2時) (レス) id: de7effe731 (このIDを非表示/違反報告)
志織(プロフ) - 織叶さん» 加筆修正したお話がたまったらこちらにサイト先のリンクを貼ろうかなと考えておりますが、暫くは手直しした話を再アップという形になるかなと思います。長い間、待っていて下さってありがとうございます。先の展開へ進むのはお待たせしてしまいますが、宜しければ (2021年1月30日 2時) (レス) id: de7effe731 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:志織 | 作成日時:2017年8月22日 20時

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