戦える６８ ページ19
あの後、念の為と医務室へと連れて行かれたが、私は大した怪我もなかったので特に何もなく帰ることとなった。ただ、及川さん――もとい兄は、寝不足とストレスによる疲弊からこんこんと眠り続けている。医務室の先生によると、明日中にはおそらく起きるだろうとのこと。一先ず息をついた。
「……伊達工サークルの皆さん、本当にありがとうございました」
医務室を出たところで待っていた三人に、深々と頭を下げる。三人は三者三様の反応を示した。「派手な兄妹喧嘩だったな」と鎌先さんが笑い、「程々にな」と肩をすくめたのは笹谷さんだった。茂庭さんは「頭を上げて」と優しく問いかける。
「俺らのことは気にしないで。当然のことをしたまでだから。それよりも、及川を気にかけてやって。きっと心細かったと思うんだよ」
信じていた母親に裏切られ、妹は自分を忘れ。
もう顔すら覚えていない父親は、仕事が忙しく兄ともまともに顔を合わせていないようだ。頼れるのは幼馴染の岩泉さんだけ。
茂庭さんの言うとおり、心細かっただろう。きっとそんな陳腐な言葉では、言い表せないくらいに。兄と違って恵まれた境遇の妹を、彼は恨んだだろうか。
――一緒でないことに慣れすぎた。
安らいだ寝顔はやはり見慣れなくて、その事実はどこまでも私達が“他人”なのだと知らしめる。
(どうしたら、いいのかな)
どんなに虐げられたって強気でいられた。それはひとえに母や友人達のおかけだ。信頼できる人がいる、それだけで強くなれるのが人間というものだ。
では、そんな人間関係に恵まれなかった兄は。
岩泉さんしか頼れなかった兄は。
一体どうやって強くなったと言うのだろう。
『気にかけてやって』
茂庭さんに言われた言葉を反芻する。今、私にできることなんてそれ以外ないのだ。
︙
医務室で眠る兄――及川徹の寝顔は、いつもの作り上げられた大人のような笑顔とは程遠く、年相応だと言える幼さの入り混じったものだった。
しばらく呆然とベッド脇の椅子に腰掛けていると、岩泉さんが医務室へとやって来た。
「岩泉さん」
「よお。調子は良さそうだな」
兄の顔色の良さに、呆れたように微笑んだ。疲労も回復し、目の下の隈もすっかりなくなっている。
「それじゃあ私は、」
「待て」
そろそろ、と立ち上がろうとした私の肩を押さえて、岩泉さんは「待ってくれ」と言葉にした。
「起きるまで側にいてやって欲しい。俺の我儘を聞いてくれ」
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油揚げ(プロフ) - 設定とかすごく面白くて，ついつい一気に読んでしまいましたwこんな素敵な作品に出会えて良かったです！ (2021年11月9日 5時) (
レス) @page21 id: 19252ecbde (このIDを非表示/違反報告)
志織(プロフ) - レイさん» 返事が遅くなり申し訳ありません！なんと3DSの時から！とても嬉しいです……！気が向いたときにでも読んでくださると嬉しいです(*^▽^*)コメントありがとうございます！ (2020年4月2日 11時) (レス) id: de7effe731 (このIDを非表示/違反報告)
レイ(プロフ) - 更新ありがとうございます！自分がスマホ持ってなくて3DSの時から読んでいてお気に入りだったので嬉しいです！無理をしない程度更新頑張ってください！ (2020年3月26日 22時) (レス) id: 860c0e78fc (このIDを非表示/違反報告)
志織(プロフ) - あぐりさん» コメントありがとうございます！そしてお待たせいたしました！変わっていく兄妹と、その周りについても書いていきたい所存でございます！お楽しみ頂けて幸いです……！ありがとうございます！ (2020年3月10日 20時) (レス) id: de7effe731 (このIDを非表示/違反報告)
あぐり(プロフ) - 更新ありがとうございます！ ずっと待っていたので更新されて嬉しいです！ここからの夢主と及川さんの兄妹としてどんな風に関わっていくのか楽しみです！更新頑張ってください！ (2020年3月10日 15時) (レス) id: e34e873475 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：志織
| 作成日時：2017年1月22日 16時
