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なんと、Aの背後にふわふわと幽霊のように

女が浮いているのだ。他の敵魔道士に気づかれていない事から

Aにしか、その女は見えていないようであった。


『………不動、やめ給え』

〔そち、同様し慣れておるのう。

じゃが、心が具現し得るわんなには分かるぞ〕


わんな、この幽霊もどきの一人称である。

そしてこの幽霊もどきをどうやらAは知っているようであった。

然し乍ら久しぶりである為にあのAの心が動いたらしい。



『……同様か。確かにお久しぶりだったからねえ』

〔…志学(十五歳)成り立ての餓鬼共を助けるなどと言う迷妄。

Aらしくも無い。気迷いは石を砕くぞ?〕



石。

人生を道に例えるとするならば、棘や石等の障害物が

決まられて置かれている。気迷いはそれらさえも壊し

自分自身をも壊しうる。幽霊もどきの、“ 不動 ”はそう言った。


〔Aと出会い、もう十三年。見えぬ形を表白続けたお主だからこそ。

わんなは理解出来る。身勝手で腐りきった大人共の実験で、無から生まれたお主だ。

辻髪(満九歳)、当時四つにして、約四千人を殺戮したその時でも

お主は感情一つ動かさずに居た。今一度問うが、A。


___果たしてお主は人間か?〕




そう、Aの底知れない正体は、あまりにも非道な人体実験により

生み出された化け物(元は何処かで生まれた人間である)であった。

国はクローバーでもダイヤモンドでもスペードでも日の国でもない、

今は海深くに沈み滅亡し、魔法により隔離され人類から見放された

人体実験用の孤島だ。

そこがAの生まれ故郷であった。実験はAが適合者として人類史上

初であり、快挙であった。が、コントロールしきれなかった。それが大抵のオチである。


『………人間である基準を決めるのは私でも不動でもない』

〔はっ、お主まさか、忘れたのではあるまいな〕


わんな、わんなと心地よい声で紡ぐ彼女の正体は

なんとまあ人外の生物であり、人間に力を与える鬼である。

そして不動は、幼きAを知る唯一の人外である。



〔…Aよ、思い出すのじゃ。あの日を〕


『………………』




Aの正体は化け物である。

鬼に憑依され、力を与えられ、その代わりに欲望を抑え続け

人間をやめている。

そんな彼女が生きるのがどれ程に苦しいのか。

どんなに絶望をしても誰にも助けを呼べないのか。







___全てはあの日から始まった。







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作者名:みるく | 作成日時:2022年1月5日 18時

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