情動の九葉 di-2 (ページ7)

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ロータスはダイヤモンドでも実績を積み上げてきた手慣れである。

今まで信じられぬ程の凄まじい才能や、動物と人間を融合した人体実験

胃を燃やし尽くさんか如くおぞましい物も、天才をも目の当たりしてきた。

然し乍ら、こんな事があってもいいだろうか。いいや生まれてきてしまった。

彼女と言う鬼才が、王国などではないこの世界に生まれてきてしまったこと自体が

禁忌であるのだ。そう、その存在自体が鬼才すぎて。

『君が欲しいもの、それは』

「…そうだよ、幸せさ。ただただ愛する妻と娘が

生きていてくれてば良いんだよ。」

Aはだろうなと言う深い、味わい深い笑みをふわっと広げ

それを女か男か(予想では女)知らぬが、ロータスは直ぐに消えてしまうような美しさを感じた。

振動する粒子すら、ほのかに甘い、そして儚い彼女の匂いと洒脱さ。

妻を愛しているから恋情は感じないが、もしも歳が離れていなかったら

これは心底惚れてこむなあと考えた。

「君はまるで女神だねえ…オジサン崇拝しそう」

『おや、十字架でも背負ってくれるのかな』

くす、と厭らしく笑うその顔に楽しいという感情は

描かれていない。ロータスは数多の星よりも笑って欲しいと希った。

自分も王国などどうでもいい身であるから、この子には

心の底から笑う日が来るといいねえと本気で思っていた。

「じゃあ、オジサンは此処から出るよ。君達はどうするんだい？」

『…どうやらお仲間が阿呆みたいなんでね。被験者を救いに行くよ』

「(被験者…マルス君、か)」

この子ならば倒せるやもしれない、あの精鋭部隊のトップに入る

マルスと言う少年。両方とも大丈夫だろうか。

大人ながらの心配事も含んだ目で、ロータスは煙魔法で

どでかい乗り物を創成する。

「……じゃあ、自由になったら会いに行くよ。オジサンまた君を見たいからねえ」

『ふふ、楽しみにしているよ』

魔宮から出ていった事を確認し、Aはさて、と

くるりと後ろを振り返る。

Aが気だるそうに一歩踏み出した、次の瞬間。

ゆらり、草いきれが尽く埋め尽くされた様な、麗らかな

香料が体の隅々へと立ち込めた。

いっその事、死んでまおうか、など。はく、と

整い尽くした唇を動かし、しゃらんと零した。

〔Aよ、存外である〕

その姿は正に神。そう名づける他ない。

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