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久方ぶりであった。あの変わり者だが最強だと崇められたユリウスの腕に
ぞわぞわと、つま先から頭のてっぺんまで鳥肌がたったのは。
むさ苦しい、爪を焼いたあとのような生ぐるしい匂いが立ち込める。そして
その渦にいるのは、紛れもなく今、自分を見下している彼女である。
「そうですか、私を救おうとしてるんですね」と無駄を訴える目に、これ一点の光が見えない。
ある方が見てみたいぐらいだが。
「………Aちゃん、僕が必ず……っ!!」
『(……何かが)』
「(……来る)」
ユリウスとAは、突如に感じた、その巨大に膨れた魔力を感知する。
お互い話している場合ではないと悟ったようで、攻撃態勢を構える。Aはどこかしら
安心しているようにも見えた。話に無理やりにでも区切りがついた気分だったから。
そして、眩い光が、石版の頭上に浮かび上がり、二人の目を覆う。
あまりの光沢の強さに、二人は腕で目を隠すように動く。
「………やられたね」
『でも二人は逃がしませんでした』
「……助かったよ、ありがとう」
『わあ、びっくり。謝罪のつもりでしょうか』
「さあね、私にも自由の一つや二つ、あってもいいと思うんだけど」
『選択の自由は、危険の香りがしますけどね。縛られていた方が良い人だってやはりいます。
___私みたいな人とかね。』
ユリウスもなかなか負けていないようで、Aの心の内を探ろうと必死だ。
Aは見せないように隠している。傍から見ればスパイとの会話だと思ってしまう。
それくらい、熱中した話し合いなのだ。
「さて、帰ろうか。どうせ飛べるんだろう?」
『あらら、バレてましたか』
「バレバレだよ。さっきここに数十人飛ばした魔力は君のものだ」
『せっかく、貴方に頼ろうと思っていたんですけどね。ざんねんざんねん」
「…………」
ユリウスは、嫌味でAに返したつもりだったが、とっくにAは
ユリウスの考え事などわかっていたようだ。それこそ白衣装の魔道士を飛ばしてから
かもしれない。結局Aにのせられて、何時ものように謎の理論を会話する。
展開がややこしいが、楽しくない訳では無いので、嫌ってはいない。ただ苦手ではあった。
いつも自分が押し黙って終わってしまうからだ。
「Aちゃん、いや、A」
『なんでしょうか、魔法帝』
「呼び捨てでも構わないよね?」
「はは、どうぞどうぞ」
乾いた笑い声が、地下に響いた。
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作者名:みるく | 作成日時:2022年1月5日 18時