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ユリウスは、隣に立てられた古い石版の横に移動する。

赤いローブがゆらりと揺れ、その間からは魔導書が確認できる。

高速魔法を発動した割には、緊張の様子が見られなかった。さすが、としか言いようがない。


『……へぇ、それが』

「うん、魔石をはめ込む石版だね…。情報が少ないからなんとも言えないけど」

『魔法帝、お手柄でしたね。……あぁ、そうそう君も』

「………ひっ…あ゛…う゛…」


Aが包帯がだらけた、右腕で、先程薙刀で串刺しにした彼を引きずる。

夜中にこれをやられたら、仲間であっても泣き出して逃げてしまいたくなる。

子供ならば耐えられない。そんな恐怖が男を襲った。

一方ユリウスは、経験は高いがこんなにも残虐に敵を扱う魔道士は初めて見たようで

眉を下げてしまう。それを行っているのが、彼女だとさらに。



「や゛……だ…ぁ゛ぁ゛………」

『臓器を貫いたつもりだったけれど、魔法の可能性は高すぎて困るね。

可能性とは、良くも悪くもパラドックスに肖るからなあ…』

「こら、いつまでも引きずらない」

『んふふ、それで魔法帝、拷問は?』

「処刑にでもしたいのかい?彼の記憶を覗き見ても、いい情報は得られないと思うけれど」

『言ったでしょう。可能性とはパラドックス。急がば回れ、けれども先んずれば人を制す。

世の中は 善は急げなのだから、貴方だってそうでしょう?』



Aの笑みと、その血の付着具合から敵魔道士が仲間を引きずっているような感覚に

見舞われた。それほど、恐ろしく見えるのだ。

そしてAが言いたいのは、可能性は無限大なのだから、いつか説同士がぶつかって

パラドックスのように見かけだけの虚偽の真実に辿り着くのは避けきれまい。だから

世の中は多数派に傾いて、善は急げと責任を押し付けて急かしてくる。そして

押しつぶされれば、戻ることは出来やしない。戻るところが失われているからだ。と

つまりは、彼の記憶を見ようがみまいがお前には、こいつらを殺す気力がないだろ、だって

少数派を押し切る多数派なんだからな、と言っているのである。



「私を高く置きすぎだね。まるで私をわかったかのような言い草だ」

『分かったような気になって、救いを照らして自分を救おうとしてる人には言われたくないですね』

「……Aちゃん、もうやめなさい。君も左側が痛いはずだ」

『私が心が痛い。へぇ、そう思ったんですね』





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作者名:みるく | 作成日時:2022年1月5日 18時

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