愛の数だけコウフクな嘘を【中原中也】【太宰治】

コウフクな嘘 29 ページ30

「マフィアのスパイ、ご苦労だったね」




任務の報告書を提出すると、種田は微笑んでそう言った


「ありがとうございます」


異能特務課に戻ってきたという安堵感に、Aも微笑んだ


「どうだったかね、スパイとしての生活は」


報告書を受け取りながら問う種田に、Aは少し考える


「…苦しい事もありましたが、楽しかったです、貴重な体験でした」


素直に告げると、種田は満足げに笑い、報告書を机に置いた


「そうかね、これからの事だがー…」


椅子に座る種田を見つめる


ー…が、種田の後ろの窓から




逆さになった中也が覗き込んでいるではないか




「…あ、ぇ、えと」


あたふたし始めるAに気づき、種田が振り向いた途端、中也は開いた窓から軽やかに舞い込んだ


突然の来訪者に、種田は目を丸くした後、すぐに目を細めた



「これはこれは…、マフィア五代幹部の中原中也君ではないか」


「何時もお世話になっております


突然の来訪申し訳ございません


普通に訪れようものなら捕まるのは当然でしたので、この様な御無礼を」



帽子を脱ぎ、胸の前に当て、お辞儀をすると、中也はAに目配せした


「中原さん…」


戸惑いと歓喜を隠せずに、名前を呼ぶと、凛とした中也の声が執務室に響いた





「私、中原中也は七瀬Aさんとお付き合いをさせて頂いております


今日はこの事を宣言する為に訪れさせて頂きました」





中也の宣言に、種田は腕を組んだ


「ほう…」


興味を示しているも、厳しい種田からの視線を感じながら中也は真剣な声音で続ける


「敵対組織なのは、充分承知の上です


ですが、Aとは"唯の中原中也"としてこれからも付き合うつもりです」


中也が告げ終えると、種田は深く息を吐いた後、Aに視線を移した


「中原君、君の気持ちはわかった


…七瀬君、君はどうなんだね」


その問いかけに、身体が強ばる


鋭い視線に、怖い気持ちを抑えて、Aは口を開いた


「私も、同じ気持ちです、


"唯の七瀬A"として、お付き合いしたいです…！」


そう告げると、中也が息を呑むのがわかった


「真剣な気持ちはわかった


…中原君、七瀬君を大切にしなさい」


種田の言葉に、中也は「勿論です」とお辞儀をした


「種田長官、ありがとうございます」


Aの肩を抱き寄せると、中也は深々とお辞儀をした


「ありがとうございます…！」


続けてAも礼を述べると、種田は微笑んで頷いた

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