愛の数だけコウフクな嘘を【中原中也】【太宰治】

コウフクな嘘 23 ページ24

一旦家へ帰って、私服に着替えて、急いで家を出た


向かう先は、港近くの公園


走って、走って、Aは向かった


辿り着いた先には、砂色の外套の後ろ姿


そうして、くるり、振り返って



「やぁ、A」



鳶色の瞳を細めて、微笑んだ


「太宰…」


「ほら、来給えよ、今日は星がとても綺麗だよ」


太宰の細い指が指した先には、数多の星々が輝いていた


「わぁ…、綺麗」


疲れも、悲しみも忘れて、Aは手すりから身を乗り出して星を見つめる


子供の様に無邪気に笑うその横顔を見て、太宰はクスリと笑う




「ー…それで、どうしたのさ、A」




ヨコハマより遠くの海を見つめて、太宰は呟くように言った


「…あ」


その問いに、一気に現実へ引き戻された


"少し話をしよう"と言った太宰の横顔から、何を思っているのかなんて分からなかったけれど


けれど、今、誰かに胸の苦しみを打ち明けたかった





「私、心のどこかで、中原さんは私の事を好いてくれてるんじゃないか、そう思ってた



でも…、違った




中原さんは、私じゃ無くても良かった」





その事実を口にすると、胸が軋むように痛んだ


それでも、Aは胸の思いを打ち明ける




「でも、嘘でも中原さんは"好きだ"って、言ってくれて、凄く嬉しかった


嘘でも、私には充分だった


だって、私は嘘つきだから





ー…でも、



でも、悲しくて、哀しくて、仕方がない…！」




本音を口に出した途端、同時に涙も溢れ出した




「種田長官からのご支持で、私、異能特務課に戻るんだ


だから、マフィアのスパイを辞めるの



…中原さんのこと、忘れなくちゃいけないのに、忘れられそうにないや」



自嘲と諦めにから笑いする









「ー…忘れさせてあげる」









「え？」と聞き返す前に、包帯に巻かれた太宰の両腕に抱き締められた


突然の事に、息が止まる


「好きだよ、君の事が」


思いもよらなかった告白に、心臓が跳ねる


太宰は一旦腕を解いて、Aの肩を掴んで、目を見つめた


切なげに、苦しげな表情で




「ずっと前から、君の事が、好きなんだ


特務課へ戻ったら、私と付き合って欲しい


好きで無くていいから





私が屹度、中也の事をAの中から忘れさせてあげるから」




見たこともないくらい真っ直ぐな視線に、Aは目を離せない


「でも、私ー…」


Aはきゅっと手を握って、太宰の瞳を見つめ、そしてー…



「私は」

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