伝え愛 4 ページ5
(嫌だ、嫌だ、嫌……!)
Aは帰路を、足をもつれさせながら走っていた
太宰に触れられたことが嫌で
そして、太宰に抵抗できず、1秒でもあの瞳に囚われてしまった自分が嫌で
水に濡れた身体の気持ち悪さより、そのことが勝っていた
「中也が帰ってくる前に着替えて、ご飯作らなくちゃ……」
マンションに着き、鍵を開けて中に入ったところで、食欲をそそるような匂いと、明かりに気づき、Aは「まさか」と驚きながらリビングのドアを開く
「お帰り、遅かったな」
そこには、髪の毛を一つに束ねてキッチンに立つ中也の姿があった
「中也……なんで、今日、会議じゃ」
「んー、会議無くなってよ、夕飯出来てるぞっ……て」
呆然としながら身体から水を滴らせるAに気づき、中也は慌ててバスタオルを取りに行き、Aに被せた
「おいっ、なんでンな濡れてんだよ!」
ぎくり、と効果音が付きそうに肩を揺らすA
「あー、えっと……」なんて目を泳がせていると、中也はAの髪の毛をわしゃわしゃして
「取り敢えず、風呂入ってこい、話はそれから聞く……こんな冷たくなって、風邪ひいちまうだろ」
中也の大きな温かな手が、そっと頬に触れる
その手は、先ほどの太宰の手の様に嫌悪感を感じるようなものでなくて
中也の温度と伝わる優しさに、Aは安堵しながら頷いたのだった
「はぁ?人助けしようとしたら川に落ちただぁ?」
食後の珈琲を飲み干し、中也は呆れたように言う
「うん……、溺れかけてる人を引っ張ろうとしたらつられて落ちちゃって……」
Aに事実を言う勇気はなかった
川で溺れかけていた太宰を助けた、なと、口が避けても言えない
そのままなんとなく嘘をついた罪悪感に浸って口を噤んでいると、中也目を細めて笑った
「まぁ、お前に何もなくて良かったぜ、偉かったじゃねェか、人助けしてよ」
中也の言葉に、Aの胸は高鳴り、顔は熱をもつ
「……ありがとう、中也」
嬉しくて、中也の言葉が唯嬉しくて、Aは微笑んだ
「……おう」
中也はその笑顔に少し目を見開いたあと、照れたようにはにかんだ
「今日の飯美味かったろ、また早く帰ったら作ってやるよ」
「本当に!?やったー!中也最高!」
「おっ、言ってくれるじゃねぇか」
そんな下らない様な、たわいもない会話をAは幸せに感じていた
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みく - こんなに心をうごかされた作品は初めてです!感動しました!もう最高すぎて苦しい!!!!! (2019年2月15日 21時) (レス) id: 672796e13d (このIDを非表示/違反報告)
みりあ - 素晴らしい作品でした! (2019年2月15日 21時) (レス) id: 672796e13d (このIDを非表示/違反報告)
AS(プロフ) - ゆづきさん» うわわ、とっても嬉しいです!コメントありがとうございます(*´v`)亀更新ですがお付き合いいただければ幸いです! (2017年6月10日 23時) (レス) id: f709ff2152 (このIDを非表示/違反報告)
ゆづき - とても、面白かったし感動しました! (2017年6月10日 22時) (レス) id: 029d1006b7 (このIDを非表示/違反報告)
AS(プロフ) - 花さん» 嬉しいお言葉をありがとうございます(*´∀`*)なかなか更新出来ずすみません…(´・ω・`)なるべく更新するように頑張ります! (2017年6月5日 7時) (レス) id: f709ff2152 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:AS | 作成日時:2017年4月24日 17時