【文スト】伝え愛 2【中原中也】

おいでませ、温泉旅行 ページ34

Aは自分の目を疑った


しかし、目の前のそれは、確かに事実だ


「おめでとうございます！2等の温泉旅行です！」


からんからん！とベルが鳴らされ、周りの人達は拍手をする


Aは目の前の福引から零れ出た銀色の玉を見つめた



いつも通り帰ってくると、Aがスリッパをバタバタ音を立てながら勢いよく出迎えをした


「中也！中也！」


笑顔で名前を呼んでくるAに、何かいい事があったのだと、中也は予想する


「どうしたよ、なんかあったか？」


外套を渡しつつ問うと、目の前にチケットを突きつけられた


「温泉！行こう！！」


そのチケットには、温泉招待券、と書かれていた



目の前の光景を見ながら、中也はため息をつく


「はぁ……何でこうなったんだろうな」


その横で、尾崎は中也ににこやかに笑いかけた


「なんじゃ、私がいると不服かのぉ？中也よ」


中也の隣でAは笑うと、目の前の光景に目を向けた


……そこには、マフィアの首領とは思えないほどはしゃいでいる森鴎外と、森に呆れるエリスのふたり


「エリスちゃん、いいよ、とっても可愛いよ！」


「リンタロウ！もういいでしょ！行きましょうよ！」


行く先々でエリスの写真を取るものだから、1行は先に進まない


「それにしても……5人以上で2人無料、なんて、よく考えるのぉ」


3人払わせる始末か、という尾崎に、中也はチケットを苦々しげに見た


そこには、尾崎の言う通り、5人以上で2人無料！と書かれているのだ


「今回は俺達の為にありがとうございます、姐さん」


「ありがとうございます、紅葉さん」


御礼を述べる2人に、尾崎は笑う


「いいのじゃ、温泉なんて、私は中々いけないしのぉ、此方こそ感謝するぞ」


「しかし……、2人の初旅行だというのに、私らが邪魔してしもうて、すまんのぉ」


"初旅行"という言葉に、2人は同時に肩を揺らした


「そっ、そんな！」


「いいんですよ、姐さん！俺達、来られただけで満足ですし！」


2人に、尾崎は「そうか？まぁ、楽しもうではないか」と言い、写真を取っている森を引き戻そうと2人の元を離れた


残された2人は、お互い沈黙した


考えていることは同じ


(中也……こられただけで満足って、本当に思ってるのかな、首領達のお陰で来れたけど、中也とふたりきりになれないよ)


(あー、糞、着いてきてもらってすっげェありがてェけど、これじゃ同室にもなれねぇ)


さて、悩める2人の初旅行、1体どうなることやら……

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