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走れ、走れ、走れ! ページ45

と、その時。
向かいの歩道で何かがきらりと光り、僕の目を引いた。
その何かは、ぽつりぽつりと灯りがつき始めた街灯の光を浴びながらゆっくりと移動している。
何故か見過ごす事が出来ず、僕はショーウィンドウに張り付いてジッと目を凝らした。

あれはなんだろう?
どうしてこんなに気になるのだろう。

「そこで何してるの?そろそろ行くわよ?」
「はいはい……」
お母さんに適当に返事をした瞬間、僕は気づいてしまった。
その「光る何か」が、ユウミさんの金髪だという事に。



僕はたまらず店から飛び出した。

「リーハ?!」
お母さんの声が遠くに聞こえる。




夜風は冷たく僕の身を切った。

僕は信号が変わるまで待てずに、車が行き交う間を縫って、向かい側の歩道へ突進した。
たちまち、クラクションや怒号が飛び交う。

でも僕は振り向かずに、ただひたすらに、走った。

『ユウミさんに追いついたからといって、何になるんだ?』
頭の中で、僕が僕自身に呆れてそう言っている。
『どうするんだよ。』
分からない、分からないよ。

『何か考えがあるの?」
いいや、考えなんて何にもない……

歩道に敷き詰められたタイルの割れ目に足がはまった。
僕は転んだ。
呆気なく、その上多分、ぶざまに。

周りを歩いていた人達のクスクス笑いが聞こえてくる。
足や腕には痺れるような痛みが広がった。
頬までが痛かった。
思わず触れると、手には血がついた。

僕は惨めでたまらなくなった。
『バカだよ、ほんとに。追いかけたってどうなるのさ。今更何にも覆らないのに。』
分かってる、分かってるよそんな事……

でも……
この道の向こうにいるんだ、ユウミさんは……!

その見事な金髪は、今も遠くできらきらと光っている。
初めて会った時や、キッチンでランチのお手伝いをした時と同じように、ゆらゆらと風に靡いて。
まるで僕を手招きするように。


僕は『そんなの、ただの幻想』と言い続ける自分の声を振り切って、立ち上がった。


走れ、走れ、走れ!


幻想だって良い、ここまで来て諦められるものか!
僕はまだ、ユウミさんに「あなたの事が好きです」って言っていない!


道の向こうでふいと角を曲がってしまったユウミさんの背中を追いかけて、僕は再び走った。
人々の群れも夜風も追い越した。

痛みなんか、苦しさなんかどうでも良い!
ユウミさん!僕はただ、あなたの事が好きなんだ!

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設定タグ:恋愛 , 冒険 , 殺し屋   
作品ジャンル:ミステリー, オリジナル作品
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作者名:木の葉月&シャーロック | 作者ホームページ:https://twitter.com/Sherlock_Rio  
作成日時:2020年11月13日 12時

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