シオン ページ15
「…とんだ見当違いだったようね」
私はサーを見下ろして呟いた。声が思ったよりも低くて、自分でも驚いた。
「外れないんじゃ、なかったの？」
「す…まない…」
「死なないんじゃ、なかった？」
「は、は…手、厳しい、な…」
彼が途切れ途切れに話すものだから、目頭が熱くなった。
私は用意された丸椅子に座って彼の右手を握る。大きな手のひら。けれど力はなくて。
「…ぁ、」
「いいの、話さないで。"読む"から」
「……ぃ、や…」
「貴方と長く話していたいの。お願い」
私は両手で彼の手を握った。冷たくて固い。死が近い。もうどうしようもない。
左手は無い。仕方なく、預かっていた指輪を右手の薬指につける。
彼は微笑んで私を見上げた。私は笑って立ち上がり、左手で彼の頬に触れる。
謝罪や後悔ばかりで埋め尽くされた彼の脳内を見て、私はちょっと顔を歪めた。
「ユーモアはどこに置いてきたの」
サーはちょっと目を見開いて、ゆっくりと笑った。
それからはすっと他愛ない会話をした。私が話して、彼は心の中で返事をする。
"君は嫌っていたがあの映画が好きだった"
"文字は細かいがこの本を読むといい"
"あのスウェットは意外と着心地がよかった"
"ちゃんと自炊しないと健康に悪いじゃないか"
"生活リズムを作らないとよくないぞ"
本当に他愛ない会話。
もう紡ぐこともない言葉を、2人でぽつぽつと続ける。
私は何度も彼の頬を撫でて、時折ばらけた髪の毛を整える。
"顔が見たい"
彼の声が見えて、顔を覗き込む。
うっすらと開いた目は、愛しい人を見る目をしていた。
「……サー、私貴方の一番になれないわ
私ひどい泣き虫なのよ」
私は彼の顔を両手で包み込んで、額に長く静かなキスをした。
サーは嬉しそうに笑って、力ない右手を動かした。私はそれを両手で支えて、大きな手のひらに頬ずりをした。
"そんなことなどどうでもいいのは、君も分かっているだろう"
「…そうね。貴方は優しいもの」
節くれた無骨なヒーローの手。温かい金色の瞳。肌は嫉妬するほど白くて。
いつも冗談を言って笑わせてくれたその口からは、掠れた小さな声しか出ない。
せつなくて苦しくて、痛いくらいに奥歯を噛み締めた。
「好きよ、サー。世界で一番愛してる」
貴方のこと、忘れないわ。私は纏っていた赤いドットのスカーフで小さなバラを作った。
彼は優しく微笑んだ。"お揃いだな"なんて心の中で呟いた。
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有栖 - 家族の前で！！！！！！！！！泣きました！！！！！！！！！さいこうです！！！！！！！！！ (2021年10月20日 18時) (
レス) @page22 id: fca2a71135 (このIDを非表示/違反報告)
William(プロフ) - 外道さん» とても直接的なコメントありがとうございます笑思いが伝わってきました。そういっていただけて嬉しいです。これからも不定期で思い出したように更新しますので是非楽しんでいってくださいね(*^^) (2020年5月20日 8時) (レス) id: e02290bc81 (このIDを非表示/違反報告)
外道(プロフ) - 泣きました (2020年5月20日 1時) (レス) id: 3ba5823a10 (このIDを非表示/違反報告)
William(プロフ) - 本屋と図書館とガソリンスタンドの匂いが好きさん» ありがとうございます。サーナイトアイの小説は少ないので悲しくて…考えに考え抜いた結果この作品を書くに至りました。そう言っていただけて嬉しいです。更新頑張るのでぜひ楽しんでくださいね(^^) (2020年4月19日 22時) (レス) id: 3ee161ce59 (このIDを非表示/違反報告)
本屋と図書館とガソリンスタンドの匂いが好き(プロフ) - サーーーー！！！！！！！素敵な作品をありがとうございます！出会えて良かったです！ (2020年4月19日 21時) (レス) id: f760c82735 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：William | 作成日時：2020年4月18日 23時
