29 “雨と硝煙の香り” ページ10
学園祭からの帰り道、進むほどに雨脚が強くなり時折襲う稲光が不気味さを覚える。そのせいもあり来た道は行きと違う景色へと変わり、傘では守りきれない雨粒が肩や足元をじっとりと濡らし重くのしかかる。
ふと、車道を一台の車が通った。
ただ何気なく目で追ったそれは、知っている車種で同じものでもないのにヒュと息を飲む。
それは黒いポルシェ。
ナンバーまでは覚えていないが、アレはそう走っているものでは無いと知っているから、傘の柄を掴む手に力が入る。
見つけてしまった。
関わる事は無いが知っているのと知らないのとでは違うし、“作品のファン”であれどもちろん今いるココは私にとって現実の世界な訳で、“彼ら”の危険性を知っているが故で来る緊張からか身体が震えた。
この世界は天気や状況で危険度が増すのだろうか…
頭を切り替えねばと重たい足を進めると、“帽子をを深く被った男”とすれ違った。
──雨の匂いに混じってツンと鼻にくる匂い
距離のせいか、それともまだ時間が浅いのか、私の鼻にはとても濃く鋭く感じられた匂い、これは──
「火薬……?」
口から言葉が零れたと同時に背後で足音が止まる。
逃げなければいけないのに、足が地に根を張った様動けない。後ろの人物もこちらの出方を窺っている。
鋭い気配が背中に刺さり、徐々に鼓動が速くなるのが分かる。
早く逃げなければと手にしていたスマホを握り直すが、雨のせいか汗のせいかそれはスルリと手元から飛び出した。
「落ちましたよ?」
声と共に拾い上げてくれたのは深く帽子を被り“黒を纏った人”。
「あ、ありがとう、ございます。」
「いえ、お気を付けて。」
スマホを受け取る為に一歩近付けば火薬の匂いがまた濃くなり、鼓動と警報とが煩く鳴り響く。
雨に流されず強く鼻に届く匂いに一瞬クラリとした。
今の彼はきっと“あちら側”であり、その任務を終えた後なのだろう。
相手を直視してはいけないと本能が訴え、会釈だけして返ってきたスマホを握り締め歩き出す。
背後ではまだ此方を見ているのだろう、背中にピリッとしたモノが走る。
靴に染み込む雨水が不快感を増す。
走り出したい衝動を抑え、ゆっくりだが出来るだけ速く帰る事に集中した。
「──さっきのは…いや、まさかな。」
“黒を纏った彼”がそう呟いた事を知らずに──
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雪見大福(プロフ) - これからも無理せず頑張ってください! (12月9日 5時) (レス) @page12 id: 4031fb98ab (このIDを非表示/違反報告)
Kichi(プロフ) - ayastさん» ayast 様 応援ありがとうございます。こだわりつつ書いているので、不思議さを感じていただけてとても嬉しいです。遅筆ですが頑張らせていただきます。 (6月6日 22時) (レス) id: 3d03e69c56 (このIDを非表示/違反報告)
ayast(プロフ) - お話し読ませていただきました‼︎とても不思議な設定で私も不思議体験しているようです楽しく読ませてもらいました‼︎これからも応援しています! (6月4日 23時) (レス) @page7 id: af36fdec29 (このIDを非表示/違反報告)
Kichi(プロフ) - 有理さん» 有理 様 感想ありがとうございます。楽しんでいただけて嬉しいです。お言葉を糧に頑張らせていただきます。 (5月24日 23時) (レス) id: 3d03e69c56 (このIDを非表示/違反報告)
有理 - 最初から読んできました!凄く理想な話です!楽しく読ませてもらってます!ありがとうございます!無理せずに頑張ってください! (5月20日 9時) (レス) @page4 id: a05ef41127 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Kichi | 作成日時:2023年5月12日 15時