28 “真昼の冒険譚” ページ8
過去に行かないか冷や冷やしながら、ナビを頼りに出発し、ついに来てしまった帝丹高校。門にある学園祭の看板もお店のポスターで見た第〇回と同じ数字であるから、無事に同じ時間内でたどり着けた事にまず安堵する。
しかし、今から何が起きるかも知っているわけで、すぐに胸の鼓動は変な鳴り方を始め、身体のあちこちに自然と力が入る。
この物語の本筋にはなるべく関わりたくない為、主要人物らにバレない様に変装をした。
と言っても、あの日と同じしっかりメイク。髪も下ろしてあっという間に“桜のお姉さん”の出来上がり。
この姿は小さい頃の“彼ら”しか知らない。
とにかく知ってる人に“店長”だとバレなければいいのだ。あとはいつもの姿勢と口調にさえ気を付けていれば大丈夫だろう。
人の波に流されるままに体育館に向かうと、開演間近ともあり人で溢れていて座席も残り数席しか空いていない盛況っぷり。
純粋に舞台そのものもとても楽しみだし、彼の推理ショーを生で見られるなんて…後にも先にもコレが最後だろう。
“この世界”に来て関わった事で訪れたチャンス。
胸の高鳴りは止まることを知らなかった。
だからこそ油断していたのかもしれない、
声を掛けられた訳でもなく、“それ”はちくりと背中を刺し、振り返ってはいけないと分かっていながらも、振り返り視線の主を確かめずには居られなかった。
それくらいに強い視線の持ち主は、とてと見覚えのある“マスクをした子ども”。ただ違うのはその目の語るモノである。何も話さないのも不自然なので、当たり障りの無い言葉を選ぶ。
「…どうしたの?迷子かな?」
「ううん。なんか知り合いに似てると思ったんだけど…勘違いだったみたい。」
「そうなの。そろそろ席に座らないともう始まるわ。」
「うん…またねお姉さん。」
そう告げて私の横を通り過ぎ前方の席へと戻っていく。
「またね、か。」
“彼女”の事だから簡単に気付いたんだろう。別れ際、唯一見える目元は“いつもの彼女”のそれだった。
後方の空いていた席に座り、溜め息一つついたところで体育館の照明が落ちる。
シン──と静まる館内でほんの少しの沈黙なのに自分の鼓動だけが響いているようで、落ち着かない。
さぁ、いよいよ“舞台”が幕を開ける。
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雪見大福(プロフ) - これからも無理せず頑張ってください! (12月9日 5時) (レス) @page12 id: 4031fb98ab (このIDを非表示/違反報告)
Kichi(プロフ) - ayastさん» ayast 様 応援ありがとうございます。こだわりつつ書いているので、不思議さを感じていただけてとても嬉しいです。遅筆ですが頑張らせていただきます。 (6月6日 22時) (レス) id: 3d03e69c56 (このIDを非表示/違反報告)
ayast(プロフ) - お話し読ませていただきました‼︎とても不思議な設定で私も不思議体験しているようです楽しく読ませてもらいました‼︎これからも応援しています! (6月4日 23時) (レス) @page7 id: af36fdec29 (このIDを非表示/違反報告)
Kichi(プロフ) - 有理さん» 有理 様 感想ありがとうございます。楽しんでいただけて嬉しいです。お言葉を糧に頑張らせていただきます。 (5月24日 23時) (レス) id: 3d03e69c56 (このIDを非表示/違反報告)
有理 - 最初から読んできました!凄く理想な話です!楽しく読ませてもらってます!ありがとうございます!無理せずに頑張ってください! (5月20日 9時) (レス) @page4 id: a05ef41127 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Kichi | 作成日時:2023年5月12日 15時