: ページ28
「ごめんねAちゃん」
運転席の窓を開けて顔をのぞかせる新井さんがそう言って申し訳なさそうに何度もペコペコとしている。
「2人は乗ってかなくていいの?」
「私は大丈夫ですけど、大希さんは...」
「俺はAとまだ呑むから」
「えっ」
大希さんは「ん?」と言って私を見る。
「まだ呑むって...」
「だめ?」
無意識なのかわざとなのか、子供のようにそう聞いてくる大希さんに拒否する気になんてならなかった。むしろ嬉しくて顔がニヤけていたと思う。
「ふふ、だめじゃないです」
「よし」
「ちょっと、イチャイチャしないで」
新井さんが少し呆れたように笑っている。
「じゃあ理だけ持って帰るよ」
「わりいな、頼む」
「あと大希。…あれ見たけど」
「あぁ。気にすんな、別にどうってことねえし」
「ならいいけど…」
大希さんと新井さんがなにやら話していたが、結局何の話か分からないまま「じゃ」と言って運転席の窓が閉められた。
手を振る新井さんと後部座席で寝転んでいるであろう井口さんが乗る車を見送って、大希さんと2人になった。
車が見えなくなった頃、大希さんは「さて」と車とは逆方向へ歩き出していた。
「なんも決めてねえんだけどさ」
「歩きながら探しましょうか」
「そーやな...」
行くあてもなく、明かりの消えた飲食店の数々を通り過ぎながらしばらく歩いた。酔っているからか夜風が気持ちよかった。
店も見つからないまま、大希さんの隣を歩き、会っていなかった間に起こった事を沢山話した。
もちろん、個展の事も。彼は自分の事のように喜んでくれて、私の話を笑顔で頷きながら聞いてくれる。自分の話を人へこんなに話したのはいつぶりだろう。
「...お店、空いてませんね」
「そうやな...」
20分ぐらい歩いた頃だろうか。歩いているうちに明かりどころかシャッターも閉まってきて、帰るしかないのかと諦めかけていたときだった。
「なあ」
「はい、?」
「ウチ、こねえ?」
少し驚いた。
「仕方ねえし今日は帰るか」なんて言われる思っていたから。
コウくんに悪いかと思ったが、行くか行かまいか悩んだのはほんの3秒だったと思う。
「お言葉に甘えて」
174人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
舞(プロフ) - 更新頑張ってください^_^ 応援してます٩(^‿^)۶ (2月5日 2時) (レス) @page12 id: 17ec247796 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:なーご | 作成日時:2024年1月30日 4時