◇4 ページ4
.
「案内しよか？」
『え、でも、』
「俺の心配ならいらんよ。
いつも夜までここにおるしなんも言われへんから」
『じゃあ、お願いします』
太陽が眩しかった。
キラキラと海面を輝かせて少しの自慢だった白い肌を少しずつ焼いていく。
そんなことは気にもしない彼に手を引かれるがまま、町を駆け抜けていた。
「な、気持ちいいやろ！」
『…うん、すごく』
誰かに手を取られたのなんていつぶりだろう。
こんなに爽快感に溢れることなんて、今まであった？
ううん、きっと、初めて。
「はあ、疲れた」
『崇裕くん、飛ばしすぎ、』
「あ、ごめんな？大丈夫？」
『うん、なんとか』
笑いたい。
そうだ。笑うためにここに来たんだっけ。
楽しいのに。嬉しいのに。綺麗なのに。美しいのに。
なに一つ信じられなくて。
幻想的だと思ってしまって。
そんな自分に、腹が立つ。
「な、ここ行かへん？」
『山？』
「夏はな、蝉時雨がすごいねんで」
『せみ、しぐれ…』
「ありゃ、知らん？」
蝉は知っている。時雨のことも。
でも蝉時雨は分からない。
分からないけれど、その言葉は、とても美しい響きに聞こえた。
「沢山の蝉の声が時雨みたいに降るから、蝉時雨って言うんやで」
『へえ、初めて知った』
「田舎の特権やなあ」
『そうかもね』
たった一週間の命。
短いとはいえ、その短く儚い一生分をこんなに美しく彩る言葉があったなんて。
あちこちにある蝉の抜け殻。
それを見ては、「頑張ってるなあ」なんて呟いて。
言い聞かせるような諭すようなその口調に、言いようもない不安が募った。
『この先になにかあるの？』
「なんもない」
『なにそれ』
「やってほんまやし！」
なにもない。
そう言った割にはぐらぐらと揺れる瞳の奥。
なにもないと言った彼のために、なにか見つけようと謎に意気込んでいた。
『これは？』
「ん？」
『これはなに？』
「ああ、それ松ぼっくりやで」
『え、これが？』
私だって松ぼっくりくらい知っている。
からかわないでよ。
そう言えば、「え、ほんまやって！」と焦ったように返される。
これのどこが松ぼっくり？
どう見たって…
『エビフライじゃん』
「エビフライ！？ぷっ、ははっ！」
私には分からない。
なぜ今の言葉に、彼はお腹を抱えて笑うんだろう。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 356人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ジャニーズWEST」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
一波(プロフ) - お返事ありがとうございます！とても嬉しいです！凛憧さんのまだ読んだ事ないお話読むのがとても楽しみになりました。 (2019年10月6日 15時) (
レス) id: 00967ad8ca (このIDを非表示/違反報告)
凜憧(プロフ) - 一波さん» とても嬉しいです、ありがとうございます。感情を留めずに一気に読んでもらえるなんて嬉しくて、とても光栄に思います。是非また読みにいらしてください。拙い文章ではありますが、いつでも迎えさせていただきます。こちらこそ、読んでいただきありがとうございました。 (2019年10月6日 0時) (レス) id: f3cbf63448 (このIDを非表示/違反報告)
一波(プロフ) - 気付いたら読み終わっていた。それ位このお話に夢中でした。栞は挟んだままにしておいて、お話の中の皆に会いたくなったらまた来ようと思います。素敵なお話をありがとうございました。 (2019年10月6日 0時) (レス) id: 00967ad8ca (このIDを非表示/違反報告)
一波(プロフ) - 凛憧さんのスウィートバイオレットのお話の雰囲気がすごく好きで、同じ作者さんのはまちゃんのお話が読みたくて来ちゃいました。読み出したら止まらなくて一気読みしちゃいました！読んでいて苦しくもありましたが、それ以上にどうかみんなにしあわせなラストをと祈り (2019年10月5日 23時) (レス) id: 00967ad8ca (このIDを非表示/違反報告)
凜憧(プロフ) - 雷さん» ありがとうございます。丁寧な感想、気持ち、伝えていただけるのは書いている身の上とても嬉しいです。優しいお言葉を励みにこれからも頑張らせていただきます。閲読いただきありがとうございました。 (2019年8月8日 20時) (レス) id: f3cbf63448 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
