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『ねえっ、どこ行くの?』
ぎゅっと握られた手に連れられて、人混みを駆け抜ける。
ざわついた周囲。気にも留めない通行人。
足早に過ぎていく風景に戸惑って。
濡れていた頬はいつの間にか乾いていた。
『桐山くんっ、』
何も答えない彼に、ただ焦りばかりが募っていく。
そんな言いようもない焦燥感に襲われながら、引かれた手の先を見る。
ほんの少し赤く染まっているその横顔に、不覚にもドキッとした。
「…ごめん!」
『えっ?いや、いいけど、』
ピタリと止まった桐山くん。
思いきり振り返ってそう頭を下げるものだから、私も思わずたじろいでしまう。
「あの、たまたま見かけてさ。
そしたら泣いとったから、その…」
『…やっぱり、見られてたんだ』
あの、ほんまにごめんな。
これでもかってくらい眉を八の字にして謝る彼。
思わず私も「謝らないで」とあたふたとする。
『流星かっこいいから、私よりいい人いっぱい居るしさ。
後悔してないし、大丈夫だよ』
「そ、っか」
『ありがとね、連れだしてくれて』
今日くらいは、私を見て、なんて。
私の我儘が原因で捨てられたんだ。
流星も彼も悪くない。
悪いのは、私。
「なあ、この後、なんか予定ある?」
『この後?特にないけど…なんで?』
「いや…夏祭り、一緒に回りたいな、って」
淡い提灯の光に照らされる。
私を真っ直ぐ見据えるその瞳に、心臓が、一際大きな音を立てた。
『…いいよ。回ろっか』
「え、ほんまに?」
『うん、本当に』
思案の外だったのか、目を見開いて何度も何度も確認してくる。
今まであまり話したことのなかったクラスメイト。
その印象はすぐにひっくり返って。
桐山くんは、よく笑う。
そしてその笑顔は、太陽と言うより、向日葵みたいな笑顔。
『何か食べたりした?』
「してへん。腹減ったあ」
『ふふ、私もだよ。屋台のほうまで行こっか。
神社のほうまで来ちゃったから』
ニコッと本当に嬉しそうに笑った桐山くんに、今日は胸が高鳴ってばかりだ。
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凜憧(プロフ) - まさなさん» ありがとうございます。私も今は徐々に自分を奮い立たせてなんとか行ってます…笑 少しでもお力になれるよう、これからも執筆を続けて参ります。 (2019年12月7日 1時) (レス) id: f3cbf63448 (このIDを非表示/違反報告)
まさな(プロフ) - 凜憧さん» あれ、読んでくれてるんですか!?嬉しいです!海の滴のあとがきで泣きました。私も数ヵ月前まで保健室登校だったので、凛憧さんの気持ちが分かりました。いつまでも応援してます (2019年12月7日 1時) (レス) id: 709458c7d0 (このIDを非表示/違反報告)
凜憧(プロフ) - まさなさん» なんて嬉しいことを言ってくださるんですか…!大ファンだなんて、もう泣きそうなくらい嬉しい言葉です… チラッと作品の名前を拝見させていただいたのですが、ままがむかえにこなかった。という作品、私読んでおります!!笑 お互い頑張りましょう! (2019年12月7日 0時) (レス) id: f3cbf63448 (このIDを非表示/違反報告)
まさな(プロフ) - 『海の滴《紫》』も読んでるんですよ。『夏恋注意報《赤》』も読んでます。そして他の作品もすべて読んでます。私って凛憧さんの大ファンじゃないですか?(唐突)大好きです!頑張って下さい!応援してます(о´∀`о) (2019年12月6日 22時) (レス) id: 709458c7d0 (このIDを非表示/違反報告)
凜憧(プロフ) - ばと担さん» ありがとうございます!わ、キュンキュンしてもらえてよかったです!嬉しいです、頑張らせていただきます! (2019年7月9日 11時) (レス) id: f3cbf63448 (このIDを非表示/違反報告)
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