夏の魔法にはご注意を。

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「んん、むずっ！」

『桐山くん全然ダメじゃん』

「なんでそんなできるん！？」





黒、赤、橙。

スイスイ泳いでみせる金魚に、桐山くんは悪戦苦闘。


私はというと、なぜか普通に取れていて、これで三匹目。





「とれへんー！」

『こうやってみれば？』





じっと見ていると、網のど真ん中で金魚を持ち上げる桐山くん。

そりゃ落ちるよ。
金魚の重さに網が耐えられたら全部取れちゃうよ。


まだ一回も変えていない網で金魚を狙う。
ぽちゃんと音を立ててお椀に入った橙色の金魚。

それを見て、彼がまた向日葵を咲かせる。





「なるほど、外枠使えばええねんな！」

『今？』

「金魚掬いなんてやらんもん」

『うそ、楽しいのに』

「おん、めっちゃ楽しいな！
来年から絶対やる！！」





今度こそなんて意気込んで、もう一回違う網に変えてもらってる。

真剣に金魚を見る彼の横顔に、かっこいい、と思わず声が漏れそうになる。

可愛いと思えばかっこいい。

ちょっとしたギャップに、振り回されそう。





「ちっこいのやったら取れるかな」

『あ、あれとかは？』

「ほんまや、取れそう」





パシャン。


水だけが入ったお椀に、確かに加わった小さな橙色。





「『やったー！！』」





小さく泳ぎ回る金魚を見て、私まで大はしゃぎする。

あまりに大きい二人の歓声に、周りにいたお客さんに拍手までされてしまう始末。


顔を見合わせて、照れ笑い。

金魚が自由に動き回っていた。





「おお！兄ちゃん、やっと取れたな。
袋に移すからお椀貸してくれるか？」





まだ破れていない網。

どうしようかと迷った挙句、破れるまで取ってみようと思った。





『あ、』





急いだせいか、一匹取って網は破れた。

合計で五匹の住処となったお椀は、金魚たちが自由に泳ぎ回るにはあまりに窮屈で。

開放してあげるためにも網が破れてすぐにお店の人にお椀を渡した。





「兄ちゃん全然やん。おまけしたるわ」

「ほんまに？ありがとう！」





今日はおまけが多いな。


五対三になった金魚が、お椀よりは広い袋の中で泳ぎ回る。





『楽しかったね』

「ほんまに楽しかった」





ニコニコと笑う桐山くんに気づかれないように、彼の前で取った橙色の金魚を袋の上からそっと撫でた。

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