8 ページ8
大丈夫。嘘じゃないから。
◇
「A、Twitter用のセルカ撮ろうよ」
テヒョニヒョンに言われて、読んでいた本をバタンと閉じる。ハードカバーはいい音を立てた。
「あ、読書中のAってタイトルに変えるから読んでていいよ」
カメラマンからの変更が入った。
テヒョニヒョンは結構シチュエーションを気にするので、僕は応じて本を読む。セルカとは。
人と話すのが苦手な主人公と脳内の電話で繋がった相手との優しくて切ない話。僕はこの作品が好きで、何度も何度も読んでいる。
短編だから読みやすい。
「サイン会近いね〜」
テヒョニヒョンが突然言った。
まぁ、確かに。ファンと会う機会がそれなりに多いので特別な感情を抱いてはいなかったけれど、やはりサイン会の距離感はなかなかない近さだ。
多少の緊張。
「ですねぇ」
「またあれやんの。ドンピシャ！」
「別にやりたくてやってるわけじゃ……」
本当に、なんとなく。
相手の近況というか背景というか、そんなものがぼんやりわかるときがある。
当たる確率が高いだけで外れたりもするし、僕は別に霊能力者ではないのだ。
間近で見られて、肌荒れてるなとか声悪いなとか、そんなこと思われないといいな。
「……A」
「？」名前を呼ばれて顔を上げた。目を合わせたヒョンの目は優しい。
「言いたくない事は言わなくていいよ」
「……あ」
天性の勘の良さ、転じて四次元キャラ。
僕は小さく声を漏らして、目をそらす。
「ね」
「……僕ももう大人です」
「でも弟だよ」
「グガより甘やかすじゃないですか！」
「だぁってあいつ甘やかしても楽しくないもーん。からかっても面白くねーし」
「結構面白いじゃないですかぁ」
「Aにはね」
はい投稿、テヒョニヒョンの指が動く。僕もスマホを手にとって見てみる。わ、もう千いったの。すごいな。
「その本明日完売すんね」
「みんなお金持ちですよね……」
僕を好きだと言ってくれる人は結構本まで揃えてくれる。というか僕がよく読んでいるせいか、サイン会でも「あの本読みました！」なんて声が多い。
嬉しい話だ。近いのにどこか溝のある日本と韓国が親しくなる理由は、なにも芸能に限らなくてもいいだろう。
と、偉そうなことは言えないな。
僕らは毎日人に見られている。
笑おうが笑うまいが、泣こうが泣くまいが、一挙手一投足の向こう側を推測されながらレンズに収まる。
そんなのは誰でも同じだ。
少し規模が違うだけ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 499人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「BTS」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
触 - 性被害後の処理の方向が驚きでした。完結までもっていってくださりありがとうございます。お疲れ様でした。 (2021年8月5日 3時) (
レス) id: 95434f44d3 (このIDを非表示/違反報告)
ぼく(プロフ) - 虞犯少年さん» リクエストさせて頂けて光栄です、新しい作品の方も毎日毎分まだかまだかと更新楽しみにしております(笑) (2019年1月3日 16時) (レス) id: a099ebec59 (このIDを非表示/違反報告)
虞犯少年(プロフ) - 猫わかめさん» そんな素敵な言葉をいただける作品を書けたことを嬉しく思います。読んで下さりありがとうございました。 (2019年1月3日 14時) (レス) id: 3f60c9b07f (このIDを非表示/違反報告)
猫わかめ - 感動しました。次へ、次へと、手が止まりませんでした。素敵な小説をありがとう。そして、完結お疲れ様でした (2018年12月31日 17時) (レス) id: abf16c0298 (このIDを非表示/違反報告)
虞犯少年(プロフ) - ぼくさん» ありがとうございます。まさにそう思われる作品を目指していたので、本当に嬉しいお言葉です。いいですね、短編でやってみたいです。 (2018年12月29日 14時) (レス) id: 3f60c9b07f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：虞犯少年 | 作成日時：2017年10月7日 22時
