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プラネタリウム、って呟いた。
子供の頃行ったプラネタリウム。終わったら建物の中にあるラーメン屋さんに寄って、展示の古い映写機を見て、母さんの手を握ったり、父さんに肩車してもらいながら回った。
ドームの中いっぱいの光の粒は星空みたいだった。
その光の全てが僕たちを愛してくれている。
不思議な事実に、僕は胸がいっぱいで、僕のちっぽけな胸じゃ受け止めきれなくて、目からとめどなく溢れてしまう。
もう泣かないって思うのに、ステージに立つたび光の数は増えていて、天井は高くなっているから感動がいつもいつも更新される。
「A」
なんだろう、これ、なんだっけ、ああ、マイクだ。
銀色がきらきらして、僕はぼんやりと手を伸ばした。
「こら、ちゃんとする!」ジニヒョンの指が僕を小突く。
「涙すごいね、拭いてあげる」テヒョンイヒョンの指が僕の目元を拭う。
「今回もAは泣いてますね」ナムジュニヒョンの声が僕のことを日本語で告げる。
「綺麗に泣くよね、ほんと」ジミニヒョンの微笑みが僕の目に入る。
「水飲め水」ユンギヒョンの手がペットボトルを握って僕の前に差し出される。
「今日のコメントもA流でいっちゃって!」ホソギヒョンの溌剌な声色が僕の背中を叩く。
そうだ、僕は八人でステージに立って、五万人の前で歌って、踊って、光を浴びて、カメラに映って、今、いる。
「A」
息が詰まった時、首に結ばれた紐を解いてくれるのはいつも君だった。
頼れる手がマイクを僕に向けている。
水を一口飲んで、目をぎゅっと瞑って涙を押し出して、首をぶんぶん横に振って、空気を取り込んで、スピーカーに吐き出した。
「……たくさん、辛いことがありました」
アイドルだ。明るくあれ。
アイドルだ。綺麗であれ。
アイドルだ。理想であれ。
違うよ、僕らは人なんだ。
僕は明るくないし、綺麗じゃないし、誰かの理想になることもできない。
神様じゃない。
漫画のキャラクターじゃない。
脳内の、想像上の人物でもない。
「苦しくて、膝を折った日がありました。苦しくて、大丈夫としか言えない日がありました。苦しくて、泣きじゃくって、自分が何を言ってるのかわからなくなる日がありました」
そしてそれは、この会場にいる誰しもに当てはまる。
僕らは今、同じ時を生きている。
同じ場所に集まって、同じ呼吸をしている。
奇跡を過ごしている。
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触 - 性被害後の処理の方向が驚きでした。完結までもっていってくださりありがとうございます。お疲れ様でした。 (2021年8月5日 3時) (レス) id: 95434f44d3 (このIDを非表示/違反報告)
ぼく(プロフ) - 虞犯少年さん» リクエストさせて頂けて光栄です、新しい作品の方も毎日毎分まだかまだかと更新楽しみにしております(笑) (2019年1月3日 16時) (レス) id: a099ebec59 (このIDを非表示/違反報告)
虞犯少年(プロフ) - 猫わかめさん» そんな素敵な言葉をいただける作品を書けたことを嬉しく思います。読んで下さりありがとうございました。 (2019年1月3日 14時) (レス) id: 3f60c9b07f (このIDを非表示/違反報告)
猫わかめ - 感動しました。次へ、次へと、手が止まりませんでした。素敵な小説をありがとう。そして、完結お疲れ様でした (2018年12月31日 17時) (レス) id: abf16c0298 (このIDを非表示/違反報告)
虞犯少年(プロフ) - ぼくさん» ありがとうございます。まさにそう思われる作品を目指していたので、本当に嬉しいお言葉です。いいですね、短編でやってみたいです。 (2018年12月29日 14時) (レス) id: 3f60c9b07f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:虞犯少年 | 作成日時:2017年10月7日 22時