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呑んだ息を体内に閉じ込めたまま、ふるりと体を震わせて視線を落とした。
様子がおかしい。
「……A?」ナムジュニヒョンの声がかかる。
「……」
「……まさか、おい、無言は肯定と受け取るぞ。もしそうなら、もう知らない振りはしてられない」
「だめ、いいの、お願い、ヒョン」
「A!!」この人は普段、声を荒げたりしない。「言いたくないことがあるのはわかる。避けたいことがあるのも、そうした方がいいと思うのも。でもな、ここまできたら」
「もう卒業するんだ!!」
弱り切った体が放った声はあまりに悲痛で、泣き出しそうで、ガラス玉はまた揺らいでいた。
ああ。俺は知った。壊れる直前の硝子細工。脆ければ脆いほど、儚ければ儚いほど美しい。日本人が桜を好む気持ちがわかった。こいつは、綺麗だ。
同時に悟った。壊れるんだって。
「大丈夫、本当に。この場所があれば、僕は……僕は」
それでも隠し事を続けるAが、苛立たしい。
苛立たしさに苛まれて、Aを見つめる二人に俺は気づかなかった。
◇
宿舎に戻ると、玄関先で先程いなかった三人が待ち構えていた。
もう退院なの? 大事をとって入院は? 自宅休養? 平気なの? と質問責めのホソギヒョンをナムジュニヒョンが宥め、何とか室内へ。
「怖かったでしょ?」
「や、よく覚えてなくて……」
「落ちる瞬間ってのはショックで意識が飛ぶものらしい」
「そうなんだ……耳の傷、あんまり残らないといいね」
ユンギヒョンの言葉に納得しつつ怪我を案じる一連の言葉の流れに、相変わらず上手な人だと思う。俺にはできない。
ホソギヒョンとのやり取りにリラックスした様子のAはジニヒョンにミルクを入れてもらうと言ってキッチンに向かった。俺は何となしについていった。
「……転んだだけ?」
ジニヒョンは目を向けることなく、軽く問う。
身を潜める俺も答えを待った。
Aは無言。
「はぁ……Aは隠し事をしている前提で隠し事をするからタチが悪いよ」
「……すみません」
「謝らないで? 事細かに話すのは自分のタイミングでいいって言ったのは僕だし。でも今回ばかりは、初めから嘘が過ぎるな。ヒントもないじゃない」
Aのマグカップは最近新調したパンダの形のもの。好きなドラマで出てくるらしい。洗いにくくてかなわないと本人談。Aの矛盾は、今に始まった事ではない。
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触 - 性被害後の処理の方向が驚きでした。完結までもっていってくださりありがとうございます。お疲れ様でした。 (2021年8月5日 3時) (レス) id: 95434f44d3 (このIDを非表示/違反報告)
ぼく(プロフ) - 虞犯少年さん» リクエストさせて頂けて光栄です、新しい作品の方も毎日毎分まだかまだかと更新楽しみにしております(笑) (2019年1月3日 16時) (レス) id: a099ebec59 (このIDを非表示/違反報告)
虞犯少年(プロフ) - 猫わかめさん» そんな素敵な言葉をいただける作品を書けたことを嬉しく思います。読んで下さりありがとうございました。 (2019年1月3日 14時) (レス) id: 3f60c9b07f (このIDを非表示/違反報告)
猫わかめ - 感動しました。次へ、次へと、手が止まりませんでした。素敵な小説をありがとう。そして、完結お疲れ様でした (2018年12月31日 17時) (レス) id: abf16c0298 (このIDを非表示/違反報告)
虞犯少年(プロフ) - ぼくさん» ありがとうございます。まさにそう思われる作品を目指していたので、本当に嬉しいお言葉です。いいですね、短編でやってみたいです。 (2018年12月29日 14時) (レス) id: 3f60c9b07f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:虞犯少年 | 作成日時:2017年10月7日 22時