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「……A」


ある日勇気を振り絞って声をかけた。
ヨウジヤマモトのキャップの下、目が大きく開かれて、「なに?」とAはぎこちなく返答する。


「どこいくの?」

「へ……あぁ、えと、古着屋……あとその近くのカフェに」

「カフェ?」

「うん。あ、ごめん、もう行くね」


さらりと宿舎を出ていかれて、何か拍子抜けしてしまう。
さらりとしているけど、うじうじしていて、そういうところが苦手で、話しかけるのが億劫になる要因でもあった。


「グギ、そんなところで突っ立って……どうした?」

「ナムジュニヒョン。Aが……」

「あぁ……気にしなくていいよ。また夕方には帰ってくる」


マンネラインの元気さとは打って変わってこの落ち着きよう。見習わなきゃと思いつつ。

あの声が忘れられなかった。
長い間共にある相手に出す声じゃ、ないだろ。





ナムジュニヒョンの言う通り、Aは帰ってきた。
ひどく疲れた顔で。

手を洗い身なりを整えAは夕飯の手伝いに料理場へ行く。台所には当たり前にジニヒョンが立っていた。俺はそれを少し離れた位置で見ている。


「ありがと。おつかいご苦労様」

「いえ、帰りに寄っただけですし」

「今日の先生はどうだった?」

「楽しい方でした。ただ、ナムジュニヒョンの方が僕はすきです」

「へぇ〜、言ってやんなよ。喜ぶよ、きっと」

「……嫌がられませんか」

「まさか! かわいい弟に言われて嫌な顔するわけないじゃん」


笑い飛ばすジニヒョンに、Aが微笑んだ。
あ。そんな顔できるんだ。


「最近は結構話せて楽しいよ。Aはリアクションいいからかわいいし〜」

「ええ。いやですよ。それいいとこなんですか」

「うん。なんだよ……また、なんかされた?」


Aの手からレモンがひとつ、落ちる。

おっと、ジニヒョンがキャッチして、もう片方の手でAを抱き寄せた。


「そう……後でホットミルク入れてあげるよ。一緒に飲もうね」


無言になって、首だけ動かして頷くA。
いいこ、と言って料理を再開するジニヒョン。
小さく鼻をすするA。

何だ?
頭の上にピコンと浮いたクエスチョンマーク。けれどAとジニヒョンに自分が立ち聞きしたことを知られたくなくて、無意識に足は外へと向かった。

年長に話せて同級には話せないことってなんだよ。
なんで俺にはなんも話さないんだよ。

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- 性被害後の処理の方向が驚きでした。完結までもっていってくださりありがとうございます。お疲れ様でした。 (2021年8月5日 3時) (レス) id: 95434f44d3 (このIDを非表示/違反報告)
ぼく(プロフ) - 虞犯少年さん» リクエストさせて頂けて光栄です、新しい作品の方も毎日毎分まだかまだかと更新楽しみにしております(笑) (2019年1月3日 16時) (レス) id: a099ebec59 (このIDを非表示/違反報告)
虞犯少年(プロフ) - 猫わかめさん» そんな素敵な言葉をいただける作品を書けたことを嬉しく思います。読んで下さりありがとうございました。 (2019年1月3日 14時) (レス) id: 3f60c9b07f (このIDを非表示/違反報告)
猫わかめ - 感動しました。次へ、次へと、手が止まりませんでした。素敵な小説をありがとう。そして、完結お疲れ様でした (2018年12月31日 17時) (レス) id: abf16c0298 (このIDを非表示/違反報告)
虞犯少年(プロフ) - ぼくさん» ありがとうございます。まさにそう思われる作品を目指していたので、本当に嬉しいお言葉です。いいですね、短編でやってみたいです。 (2018年12月29日 14時) (レス) id: 3f60c9b07f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:虞犯少年 | 作成日時:2017年10月7日 22時

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