ユナイテッド・クレイジー

　３ ページ3

翌朝、ビアンカとジェームズのふたりが出勤してきて依頼を着々とこなしていた。本棚から資料をとったり、動物園に電話をかけたり。いつもと何ら変わらない風景だった。


　ビアンカはキャロルに細胞生物学の基礎を教えてもらいはじめた。仕事の幅も増えて、こちらとしても効率が上がって大歓迎だ。何がキッカケかは分からないが、２年前と比べて大分変わった。それにビアンカだけじゃなくて、ジェームズもだ。


　会社は明るい未来へ進もうとしているのに、仕事はうんざりするものばかりだ。鬱憤の晴らし方さえ分からなくなり、俺は休暇をとるのが怖くなっていた。寝るといった休養も、暴れると言った晴らし方も、大学時代の友人と飲み合って笑うというのも、なんか違った気がした。


　俺はソファに座り、電話を横にノートパソコンを広げていた。つい先日買った最新型のもので、取扱説明書を先ほど読んだばかり。少し慣れた手つきになって、やっとメールボックスを広げられた。朝から来ていたメールは一通。


　キャロルと俺が手を組んで初めて人工的に作った子供、ビリー・エアトンの写真が送られて来ていた。小学校の高学年に上がったそうで、中学校への飛び級チャンスがあるらしい。愛妻家で子供べったりのジェイコブのことだ。飛び級するんだろう。そして、夏休みが始まり日本へ旅行に行ったらしい。


「おい。皆、見てくれ。キャロルもな」
「何だよ」


　ジェームズが俺の背後に来て、ソファに両手をつく。ビアンカはテーブルに資料を降ろして、キャロルは枝豆を茹でている鍋から離れ、こちらを見てやって来た。３人は俺のパソコンを覗き込んだ。


「ビリーだ。メールが来たぞ」
「お。海外旅行？」
「日本に行って忍者と会ったらしい」
「可愛いわね。元気にしてるかしら？」
「元気じゃなきゃ困る。ビリーに薬は控えてもらってるんだ」


　忍者の隣にいる、金髪の可愛い子供。ビリーが笑う画像を見たビアンカは、


「楽しそうだな」


　と心からの声で呟く。皆はビアンカの心情と会社のことを思い、そして暫く誰も話さなかった。自分の置かれている状況が正解か間違いなのか、心を手繰らせているのだ。

４　リザ＆チェリー登場→←　２

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す