弐百捌拾参 ページ9
薄暮を取り締まる任侠と仁義の組織、武装探偵社。事務員や捜査員の数は決して多くはないが、仕事を安心して頼めると定評のある組織である。
探偵と云うよりは街の便利屋な面もある。しかし、探偵社員の門は決して広くない。狭き門、そもそも入ろうと思って入れる組織ではないのだ。
社長や社員、他関係機関からの斡旋、相応レベルの筆記試験や身体能力、無論身辺調査も加味して漸く入社に漕ぎ着けられる。まあ、それも状況によりけりだが。
……けれども、それはあくまで『仮』入社。本当の意味で社員になる為にはもう一段階試験が存在する。
我欲に走り、力を振り翳さない人物であるか。
己の為でなく、社会の、平和の為の礎となれる人物であるか。
高潔さを持って人を救い、謙虚な心で人と接する人物かどうか。
社長 福沢の言葉を借りるなら――魂の真贋を見極める為の試験。
実際に依頼された案件を片す事もあれば、中島のように社内で作った事件への対処を課すこともあった。中には記憶から消したくなる内容もあるが、概ね人の本質に迫るものだ。
これこそが、真の入社試験。云わば『裏審査』。突破しない限り探偵社には入れない、絶対の門。
太宰がつらつらと並べ立ててくれたお陰で夏也にもその意図が分かった。今現状で幾つもの試験や様子見が行われている。泉 鏡花の“これ”もその一つに過ぎないのだろう。
「粗筋は知ってたけど。真逆此処に繋がるとはね」
あらあら、と戯けて笑う夏也の元にバゴンやらドォンやら不穏極まりない音が扉一枚隔てた向こう側から届いた。この調子だと軌道操作による墜落ではなく、機体の破損で墜落しそうだ。
少し意識を向ければ探れる程の距離に馴染みのある気配が存在している事に気付き、夏也は自身の憶測が間違っていなかった事を悟る。
『鏡花ちゃん。人には向き不向きがある。そして君には明らかな殺しの才能がある。だから探偵社員にはなれない。君はそう思っている』
『……』
『全く、莫迦々々しい』
心底呆れた太宰の声音。演技掛かった言葉選びと態度を今すぐ止めさせたい衝動に夏也は駆られていたけど。
けど、必要だと判っている。もし同じ空間に居たら流石の夏也とて殺気は隠しきれないだろうから。
『その考えが如何に根拠薄弱か一秒で証明して見せよう。鏡花ちゃん、君はその手で何人殺した?』
『……三十五人』
『たかが三十五人くらい、何だ?』
暗い、昏い黒い声。
冷ややかに告げられたのは罪科の多さ。
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みゃあ(プロフ) - 狐猫音。さん» 度々のコメントありがとうございます!少しでも楽しんで頂けたのなら作者冥利に尽きます。お言葉の一つ一つが物凄く嬉しいです。読んで頂き、ありがとうございます。 (2018年12月26日 14時) (レス) id: 9721615f06 (このIDを非表示/違反報告)
狐猫音。(プロフ) - 限定公開……!クリスマスは楽しいですね。番外編という最高のクリスマスプレゼントをありがとうございます。とても楽しんで読むことができました。これからも更新頑張ってください。 (2018年12月26日 12時) (レス) id: 1402817ddd (このIDを非表示/違反報告)
みゃあ(プロフ) - myuさん» 有り難いお言葉です……!展開に自信なかったので少し安心しました!更新頑張ります。 (2018年11月4日 11時) (レス) id: 9721615f06 (このIDを非表示/違反報告)
myu - とっても面白い作品です。更新頑張ってください (2018年11月3日 16時) (レス) id: fe06e07095 (このIDを非表示/違反報告)
みゃあ(プロフ) - ЯRさん» コメントありがとございます!そう言って頂けてとても嬉しいです。ありがとうございます! (2018年8月8日 15時) (レス) id: 9721615f06 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:みゃあ | 作成日時:2018年4月30日 21時