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カチャリと食器の擦れる小さな音。
食器は手洗い、加えて自然乾燥派な平賀家なので、それ以上の物音がしなければ作業は終わりだ。
台所から漏れてくる生活音。普段は茜が担当している家事だが、炊事場に立つのは竜一。
茜ほど手慣れている訳ではないけど世の中の男性に比べたら主夫と呼んでも差し支えは無さそうだ、とソファーで転寝していた茜はゆるりと瞼を持ち上げた。
体感としては十分も経ってないと思ったが、慣れた小笠原の気配が無いのと竜一が片付けをしてるのを聞くと、どうやら割りかし長く寝入っていたらしい。
「起きたか、茜。あと五分で風呂が沸く。……具合は?」
「うん。お風呂までありがと。別に気持ち悪くて寝てたんじゃないから平気」
横向きで寝ていた体を起こし、緩く首を回す。
子供が出来てからどうにも出来ない倦怠感や安定しない情緒などで、元より気遣いの出来る旦那に心配性という厄介なものが合わさり、今じゃ転寝も出来ない。
……なんて、少々捻くれた事を考えるが茜としても満更ではない。放置されたり、悪態つかれるよりも暖かい優しさに浸りたい、と願うのは何も茜だけではない筈だ。
「善平は?」
「三十分前に帰った。彼奴も心配してたからあとで連絡してやれ」
「二人共心配しすぎ」
もう、と態とらしく頬を膨らませて怒るフリ。旦那である竜一と弟分の小笠原。悪阻が非道かった時期なんて大の男二人が笑っちゃうくらい慌てふためいていたのを今でも思い出せる。
けどまぁ、嬉しい、と思う自分が居て。自分の前では仮面を外す小笠原が人間らしく振る舞うのは嫌いじゃない。
それはきっと隣に座る竜一も同じ思いだろう。じゃなければ他人を家に上げ、酒を呑み交わすなんて真似する訳がないのだ。
最初の頃はこうなるなんて微塵も思ってなかった。強いのに何処か危なっかしい上司の世話をついつい焼いて。気付けば地位に関係なく絡みにいって、構い倒してた。
上下関係より実力主義のポートマフィアだから許されるのであって、他の組織だったら確実に首が飛んでる。茜が前所属していた組織ならそうだった。
そう思うと随分と“平和”な裏社会に居るもんだと妙な感想すら湧いてくる。
「心配くらいはさせてくれ。茜は目を離すと直ぐに無理をする」
そう。人の心配が出来るくらいに、平和。自分で手一杯な闇の中でそんな余裕がある。だから考えずには居られない。
「……ねぇ、竜君。善平、私の所為で不利になったりしてないよね?」
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作者名:みゃあ | 作成日時:2018年1月15日 21時