第35話 先輩と私 ページ36
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結局園子は私達が見ている前で麻美先輩と約束を取り交わしてしまった。
今度の週末に、どこそこの別荘で云々と、二人はさっさと話をまとめてしまって、いつのまにか話は終了していた。
先輩は大学の同輩から携帯に電話があって、それからしばらくせぬまに「それじゃあね」と綺麗なウインクをして出て行った。
「園子ったら! 何が『生きのいい東都ボーイを、ゲットできるかもしれないよ!』よ!」
「アハハ、ごめんごめん。だってあーでもしないとAが先輩に話を聞けないでしょ?」
「え、私?」
突然会話の矛先が自分に向かってきたので、私はギョッとして二人を見た。園子の言葉に、蘭は「あぁ」と納得した顔で軽く頷いた。園子は勢いよく私を指差して、「だって」と続けてこう言い切った。
「さっきからずっと『新一の初恋の人かぁ…』ってせつなーい顔でため息ばっかじゃない!」
「そんな顔してないよ!」
「A、先輩も言ってたじゃない。初恋はいつか色褪せるものだって…だからあんまり気にしちゃダメよ!」
蘭までその話を持ち出すものだから、私はなんだか恥ずかしくなって「コナン君も行くんだよね」と話を逸らして背後にいたコナン君に話を振った。
「えっ? あ、う……うん! 園子姉ちゃん小五郎のおじさんも行くって麻美先輩に言っちゃったし…ボクもついていくよ」
「コナン君なら新一並みに推理できるから、きっと盛り上げられそうだね」
「アハハ…まさかー」
それから一人で本を同じ場所に並べているうちに、私はまた先程聞いた麻美先輩の話が頭を過って手を止めた。
新一の初恋の人なんて今迄一度も考えようとしなかった。考えたくなかったというのが正しいかもしれない。
初恋の相手なんて忘れるものだから、気にしなくていい。そう思い込みたかったのだ。自分はずっと初恋を引きずっているのに…。
「……」
私が先輩みたいに美人で、優しくて、頭もよかったら…とそこまで考えて、そんな情けない思考回路から逃れようと、私は本の整理に集中した。
アーサー・コナン・ドイル。アガサ・クリスティ。ドロシー・L・セイヤーズ、H・C・ベイリー、E・クイーン……。
麻美先輩なら、きっとこういう類の話にも乗ってくれたのだろうか。私なんか、たまに借りるくらいでちっともだしな…。
またまた邪念が入って、私は小さく呻いた。
「初恋の人か……」
私の零した言葉は誰にも聞こえることなく、消えていった。
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FenGkaz710(プロフ) - 2章楽しみ (2020年6月16日 19時) (レス) id: 760679ded1 (このIDを非表示/違反報告)
琴葵(プロフ) - 面白すぎたのでシリーズ化していると思いました……。面白過ぎます!!!更新応援しています!!!シリーズ化大希望です!!!!! (2019年12月6日 3時) (レス) id: b0ea0349a7 (このIDを非表示/違反報告)
Akiko Tanei(プロフ) - 首を縦に触るのではなく、『振る』ではないですか? (2019年9月8日 11時) (レス) id: acbd1e9f39 (このIDを非表示/違反報告)
? ????? ?(プロフ) - 第1章おつかれさまでした!すごくすごく続き楽しみにしてるので更新早くして欲しいです(>_<) がんばってください!!♪ (2019年8月9日 1時) (レス) id: e7d5c65650 (このIDを非表示/違反報告)
ぽにー(プロフ) - 茅架さん» 作者様本人ではなくすいません。その文書は合っていますよ!"違わず"というのは"たがわず"と読み、間違わずと言う意味です。 (2019年8月1日 1時) (レス) id: 2d86003c92 (このIDを非表示/違反報告)
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