彩雲が見えた日【照島遊児】 (ページ13)

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「もう一本！」

「叩け！」

「寄越せェー！」

　まだ俺の番ではない。
　待ってる間は声出しだったり、ペアと軽い作戦を立てたり。休憩は嬉しいけど、やっぱりバレーしてる方が楽しい。

　もうすぐで俺の番がくるけど、そろそろ声出しは飽きてきた。

「ユウジくんユウジくん」

　よし、あともう少しだな－－そう思って伸びをすると、背後から俺を呼ぶ小さな声が聞こえた。

　あまりにも聞き覚えのありすぎる声にギョッとしつつも振り返る。……まあ案の定というか何というか。
　Aが、体育館のドアから顔を覗かせていた。

　俺はもう一度今やってる試合の状況を見て、Aの方へ向かった。

「はいコレ」

　外へ出た俺に差し出されたのは、バレーボールだった。どうやらさっきの練習で出てしまったらしい。

「お、さんきゅ」

「うん」

　練習頑張ってね、と手渡される。
　俺はそれを受け取ると、見学なら中に入ればいいのに、と頭に過ったことを口に出した。

「ううん、遠慮しとく。私もそろそろ帰ろうと思ってたところなんだ」

　Aは、ごめんね、と申し訳なさそうに笑った。
　その表情が、先程の華さんの表情と重なって見えて。

「そんなに見られると照れるんだけど……」

　ついガン見してしまったらしい。悪い、と咄嗟に顔を逸らす。
　その慌てぶりが可笑しかったのか、Aはクスクスと笑った。

「取り敢えず、ありがとな。気ぃつけて帰れよ」

　ばつが悪くて、顔を背けたまま手を振る。
　Aはもう一度、ユウジくんも頑張ってと言ってくれた。

「それと、」

　俺が早々に立ち去ろうとするのを見てか、いつになく大きな声で止められる。

「？」

「噂話は大概にね」

　珍しく声を張っていて、何事かと振り返ると、今度は向こうが顔を背けて話していた。