【◇A】青心寮在住の引きこもり、その二。【逆ハー】

BALL52 ページ7

真希達の事は、片岡と高島がきちんとやってくれるだろう。

真希の目に怖く写れたかな、
上手く威嚇できてたかな、
みんなを守れたかな。

いろんな思いが、心から溢れ出る。

もう泣いたりしない。

髪なんていつか伸びる。
ざっくり切られた髪を触りながら、｢美容室行かなきゃダメだなー…｣なんて呑気なことを考える。

自分でもびっくりするくらい、冷静だ。


すると、後ろから｢A。｣と声をかけられた。
｢…小湊先輩。｣と彼の名前を呼び返す。

その後ろには、他の部員達も何人か見える。
見えない人達は、恐らく先生の手伝いだろう。



｢…どうですか、小湊先輩。私やりましたよ。｣

亮｢うん、お前はよく頑張ったよ。｣

｢やけに素直ですね。｣

亮｢頑張ったからね、ちゃんと褒める。｣

｢あはは、変な感じ。ありがとうございます。｣

亮｢…髪、切られちゃったね。｣

｢伸びますよそのうち。ちょっと揃えに行かなきゃなー。｣

亮｢A。｣

｢何ですか？｣

亮｢今なら貸してあげる。｣



小湊はそう言うと、腕を開いてAを待ち構えた。

小湊なりの優しさだ。
胸を貸す、という意味で言ったのだ。

そんな珍しい小湊に驚き、最初は｢ぷっ…｣と吹き出してしまう。
でも甘えたい。今は。

最初は歩いて、だんだんと足は早くなる。
抱きつく頃には走っていた。

自分より5cmくらい小さな体は、ぎゅっと抱きしめるとやけに大きく感じる。

｢…怖かったでしょ。｣と言われて、うるっ…と目が歪む。









｢…ありがとう、ございます。｣


｢どういたしまして。｣






｢怖い｣っていう感情は、自分でも気づけなくて。


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