悪徳侯爵と死の天使 ページ23
「嗚呼、久しぶりの青空だ!」
赤毛混じりの白髪の男が、ヨコハマの空を見ながら高らかに笑った。先の大戦が終わって十数年間、監獄に幽閉されていたサドにとって、久々に味わう「自由」なひと時。
様々な人間の行きかう街を見渡し、これなら一人ぐらい急に居なくなっても問題なさそうだなと感じた彼は、一人の男に声をかけた。
「やぁ君、少し時間はあるか?」
「……え?はい?」
「なァに、一寸オレの暇つぶしに付き合って欲しいだけだ。勿論謝礼として金は出そう」
サドは混乱している男の腕を引っ張って、無理やり路地裏に連れ込もうとした、その時。
「アンタ、今すぐその男から離れな!」
サドの背後から何者かが鉈を振り下ろし、彼の片腕を叩き落した。
「ぬぁッ!?」
「アンタ、怪我は無い?ならさッさと逃げるンだ!」
鉈の持ち主は、サドに捕まりかけていた男を逃がし、肩を抱えてうずくまるサドを睨みつける。
「貴…様……ッ!痛いじゃぁないか……」
「……腕が再生している……やッぱりアンタは……」
「ん?オレを知っているのか?いやはや、もうオレの事なんかとうに忘れ去られていると思ったんだがな」
「アンタの事が、どうして忘れられるって云うんだい……
「おやおや、この国では、オレはそんな名で通っていたのか。で、君は誰だ」
サドに尋ねられた女性は、鉈を構えて宣言した。
「妾は与謝野晶子。通りすがりの医者だよ!」
「ほほう、此れはまた物騒な町医者がいたものだ!」
サドは暫く、けらけらと笑っていたが、さっと表情を変えた。
「――より正確に云えば、元軍医の町医者、か。死の天使よ」
そう云われた与謝野はサドの腹に鉈を突き立てた。しかし彼は一切顔色を変えずにしゃべり続ける。
「痛いな、だがあの時に比べればマシだな!あの戦争の末期は本当に酷かった……死ねないオレと、死なない限り死なない貴様の部隊と、英国の超越者の生んだゾンビ兵団の、いつ終わるとも知れぬ泥沼の殺し合い!貴様なら知っているだろう、死に至る苦痛を幾度となく繰り返すことが、どれ程恐ろしいかを!」
「昔話ばッかり続けて、何がしたいンだい……」
「すまんな、オレはあの戦争の償いをする機会も与えられず、十数年鎖につながれていたもので……久しぶりに、誰かと話したかったのかもな」
与謝野は何も云わなかった。
「……何処へ行くんだ?」
「アンタより恵まれたところさ」
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Unknown X - ありがとうございます♪楽しみにしてますね♪ (2018年11月18日 20時) (レス) id: 10e952ee54 (このIDを非表示/違反報告)
キューブ(プロフ) - Unknown Xさん» こちらはもうお話が一杯なので続編のほうに書くことになりますが、よろしいでしょうか? (2018年11月14日 17時) (レス) id: acfd73fd70 (このIDを非表示/違反報告)
Unknown X - リクエストいいですか?谷川俊太郎さんをお願いしたいのですが… (2018年11月14日 16時) (レス) id: 10e952ee54 (このIDを非表示/違反報告)
キューブ(プロフ) - イツキ108さん» わかりました!構成の都合上、続編にて書かせて頂くことになりますが、ご了承ください。 (2018年9月18日 18時) (レス) id: 1feef1598f (このIDを非表示/違反報告)
イツキ108(プロフ) - キューブさん» 返信遅れてすみません。ありがとうございます!リクエストで、萩原朔太郎先生で,芥川さんと登場させて頂けないでしょうか...?異能は出来れば敦君に似た獣化系でよろしくお願いいたします。わがままですみません....! (2018年9月17日 23時) (レス) id: 4a38a1604c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:キューブ | 作者ホームページ:
作成日時:2018年7月4日 22時