記憶のレプリカ【sha】 ページ22
高校三年生の春。受験を控える学年になってしまった。２年というものはあっというまで、気がついたらもう最終学年になっていた。
慣れ親しんだ運動部独特の掛け声がグラウンドに響き渡る。それも、部活ごとに掛け声は違うので様々な言葉が飛び交う。個性の殴りあいだ。グラウンドを二分割にして体育館も二分割にして教室も使って、ところ狭しに活動している。友達のバレーボール部の部長によれば、今は陣取り合戦中らしい。狭い校内に対して運動部の数が多すぎて、活動場所を奪い合っているらしい。
美術室の独特の匂いの中で一人でキャンバスに向かい合う彼。描いては消して、また描いてはまた消してしまう。その繰り返しのせいで進行が遅れている。彼も受験勉強の休憩がてらに描いているものだから遅くなっても問題はないけれど、見ているともどかしくなる。
「それ、まだ描けてないの？」
消さなくても綺麗に描けていたのにと、付け加えた。
やっとのことで色付けの段階に入った。絵の具やら水やらを漸く用意し始めた。実は、この前もキャンバスに色を重ねていたのにそのキャンバスはいつの間にかどこかへ行ってしまった。きっと気に入らないとかいう理由で処分されてしまったのだろう。
そして、彼はもう一度キャンバスに向き合い、筆をとった。そして暫く描かれた絵を凝視して、「違う」と呟いた。
「違う。こんな顔じゃない。違う違う」
そう言って、キャンバスに黒で乱暴に塗りつけた。何度も何度も、繰り返し繰り返し、殴り付ける。毛の付け根から割れて毛先も八方に向いている。そして、筆を床に叩きつけた。
「あーあ。折角良く描けてたのに」
私が言っても彼は「違う」と言うだけだった。
「思い出せない。たった数年前の事なのに、なんで思い出せない」
彼は頭を腹に抱え込んだ。かぶりを振ってしきりに否定する。
「違う。違う。違う。違う」
私は部室を見回した。そこら一帯に散らかっている紙やキャンバスには、顔に同じように黒色の絵の具が塗られていた。どれもこれも顔面だけが塗られていて、人が判別できなかった。中にはちゃんと着色されているものもあった。けれどやっぱり、顔だけが真っ黒だった。
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コットンの森(プロフ) - トクメイキボウさん» 嬉しいお言葉に心臓がぎゅっとなりました。純粋に嬉しくて何回もコメントを見返しちゃいます。無い文才を捻り出した甲斐がありました。短編は長編が終わり次第再開が出来ればと思っています。お読み頂き、そしてコメントありがとうございました！ (2019年3月31日 17時) (
レス) id: c3504fefeb (このIDを非表示/違反報告)
トクメイキボウ - コメント失礼します。完結おめでとうございます。実は貴方様の作品を以前から拝読させていただいておりました。貴方様の創る世界観が大好きです。短編集が終わるのは悲しいですが、長編の方も引き続き応援させていただきます。頑張ってください。コメント失礼しました。 (2019年3月31日 16時) (レス) id: 9fdc769b3d (このIDを非表示/違反報告)
コットンの森(プロフ) - パピヨンloveさん» しばらくログインしていなくて今しがた気づきました…。返信遅くなって申し訳ありません。題名は｢かくかくのさいじょ｣と読みます。赫赫で赤々と光輝く様や、業績や名声が輝かしく現れる様などの意味があります。個人的にそういう女性が好きなので題名につけました。 (2019年3月10日 12時) (レス) id: c3504fefeb (このIDを非表示/違反報告)
パピヨンlove - 読んでいて、凄いと思いました！！これからも頑張って下さい！！ちなみに、題名ってなんて読むのでしょうか？ (2019年2月16日 14時) (レス) id: d07448dafe (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：コットンの森 | 作成日時：2018年9月20日 0時
