09#起きる訳がなかった ページ11
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シュアンさんは「此処で待ってて」と言うと、
リョダリから攻撃を受けているスオウを守りに入った。
リョダリは私には気付いていない。
「なあ、此処ら辺で銀白色の髪の女見てない?」
「知らないね」
「……おかしいなあ。
“ネフリティス”は土地勘あるから、
其処ら中歩き回ってるんだと思ってたんだけど」
「“ネフリティス”……とは?」
「なんでもなーい」
リョダリはシュアンさんに攻撃を続けるが、
シュアンさんはそれに全く動じない。
一瞬の隙を見て、リョダリの持っていた剣を振るった。
『!?』
リョダリは「死にたくない」と呟きながら、
地を這い、その場から去ってしまった。
私は彼がいなくなるのを確認してから、
その場から腰を上げた。
「おいでよ、A」
「えっ……A……?」
『……』
タッとその場から飛び降りると、
ゆっくりと足を進めた。
傷だらけの子供に伸びるのは、ファレナの
遠くでネリの声が聞こえるような気がする。
「本当に……A、なの?」
『……スオウ』
「生きていたんだね……ッ!!」
スオウは子供をシュアンさんに預けた途端、
私に飛び付いてきてそのまま倒れ込んだ。
スオウはリョダリのせいで傷だらけで、
とても痛々しかった。
以前の“泥クジラ”ではこんな事起きる訳がなかった。
「っ……大きくなったね」
『……』
「……帝国に、いたの?」
『そうなる、かな』
「……そう。何もされてない?」
『されてない、よ』
一々考える必要はない。
一々感じ浸る必要はない。
そう思うのに、この心は案外揺れ動く。
「……Aは体内送りだよ、きっと」
「分かってます……。
A、取り敢えず此処を離れよう?」
『うん……』
スオウに、こうして手を引かれるのは何時ぶりだろう。
みんなの輪から外れて一人でいる私の手を引くのは、
いつもいつもスオウだった。
「それ……“ハム”にそっくりだ」
『ハム? 食べ物じゃないよ……?』
「違うよ、A」
『え?』
「チャクロの連れてる動物もそんなのなんだ。
君のそれは名前あるの?」
『……クレイス』
「クレイス、ね」
シュアンさんはいつものようににこりと笑う。
その笑みは、何時も掴み所がない。
「君の謎を紐解く“鍵”、かな?」
『さぁ……?』
(さっきのは知り合い?)
(知らなくはないです)
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作者名:綺弌 | 作成日時:2018年2月12日 21時