解体できない代物 【松田陣平】

CASE:40 治療拒否 ページ42

A「えっ、なんで私がわりと号泣してたこと知ってるの？…ちょ、ちょっと涼花！“松田さん”ご本人いらっしゃるから変なこと言わないで！」

(涼花のバカ！松田先輩、絶対反応に困ってる。どうするの！恥ずかしくて…先輩の顔まともに見れないじゃん！…絶対引かれたぁ！もうやだ！)


松田「ちょっと待て、A。あんた…前に本気で泣いたの、いつだ？」

A「去年の、"お兄ちゃんの命日"の前後数日間…ですかね。」

"噓ばっかり〜！"という感じで、涼花が…緩みきった怪しい顔を向けてくる。

(涼花！ニマニマしない！毎年の"お兄ちゃんの命日"付近で、萩原先輩を電話相手に泣き崩れてんのはホントだし！……本人に言えるわけないじゃん。「最近、一番本気で泣いたのは…３年前の爆破事件であなたが搬送されてきた時です。」なんて――。"あの日"から３日間ぐらいは、夜になると泣いてたなぁ。松田先輩の急変が怖くて――。)

松田先輩が搬送されてきたその日は日勤で、翌日は夜勤だった。夜勤の休憩中に仮眠室でこっそり泣いてたら…涼花にバレたんだよね…『あんた。松田さん好きでしょー』って。
先輩がお兄ちゃんの同僚で、家に遊びに来て…会う回数増えてくうちに、“気になる人”にはなってるって話も…なぜか白状させられたんだっけ――。

逆に、お兄ちゃんが死んじゃった時は…衝撃が強すぎて、実感も湧かなくて…１週間ぐらい経ってからようやく泣けたんだったなぁ。

松田「………。」

担当医B「Aさん、お気持ちは相変わらずですか？…僕が立ち会った去年の冬からずっと言ってますが、カウンセリングを受けた方が早く楽になりますよ。」

A「えぇ、先生。今の私に、カウンセリングをこまめに受けに来る時間はありませんから。」

私は、このドクターが嫌いだ。
こちらが拒否しているにもかかわらず《PTSD》の治療のためにカウンセリングを受けるよう、しつこく勧めてくるのである。
大学病院から修行に来ている“お坊ちゃま”か何か知らないけど、患者さんを"症例"としか見ていないタイプのドクターは…私は大嫌いだ。

私も看護師だった身だ。
受けないよりは、受けた方が早く症状が改善されるケースが多いのは百も承知だ。

でも私の場合は、症状の改善どころか…悪化しそうな要素が多いので拒否し続けている。

兄が亡くなった時のことを…また話さなくてはいけない。
そして、ほぼ勘当に近い状態になっている両親のことも話さなくてはいけない。

CASE:41 もう１人の親友。→←CASE:39 本気で泣いてもいい相手。【ヒロイン&松田Side】

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