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また、あの夢だ。
ふわふわと浮いた身体がゆっくりと着地すれば足元に波紋が広がる。
ここを一言で表すならば、深淵。
確かに私は職場で仕事をしていたはずなんだけど一体どうしてこんな所に。
『A。』
右も左も分からずただただ足元に波紋を広がらせていた私の鼓膜を優しい声が振動させた。
それは、聞き慣れた大好きな声。
「潤さん!」
くるりと振り返るが、私の視界に映るのは何処までも先の見えない闇。
どうして。
確かに潤さんの声は聞こえているのに。
『こっちだよ、A。』
クスクス、意地悪するように笑う声。
ヤケになって足元を蹴ると水面に探し求めた姿を捉えた。
『やーっと見つけてくれた。』
クスクス、とまた笑い彼は目を細めた。
水面に揺れる彼に会いたかったよ、と微笑まれ胸が甘く疼く。
「潤さん、どうして触れられないの。」
水面に映る彼の頬に手を伸ばすけど求めている温もり、感触がない。
目の前にこんなにも恋い焦がれた貴方が居るのに。
『本当は俺もこのままずっとAをここに閉じ込めて、2人だけの世界で生きていたい。』
でもそれじゃあ駄目なんだ、と水面の彼が俯いた。
私は貴方と2人ならこのままでも良いのに、どうして。
『言っただろ?迎えに行くから、待っててって。』
そう言うと彼は向こうから水面にそっと掌を押し当てた。
私も彼の掌に重ねるように水面に自分の掌を押し当てる。
『おいで、A。』
その刹那、2人を隔てていた水面が大きく波を立て彼の掌が私のそれを掴んだ。
突然のことに驚き固く目を閉じると、唇に触れる柔らかい温もり。
確かにそれは私が望んだ温もり。
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作者名:うた x他4人 | 作成日時:2018年2月1日 17時