人には人を、妖には妖を (ページ13)

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おかえりページ13

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水木が亡くなる前、1度だけ彼に会いに行ったことがあった

彼は街でパンケーキ屋を営んでいた

その日はわしと悟られないため姿を変えて入店した

「ご注文は？」

『1番人気なものを頼む』

洒落た店内に少しばかり緊張しながらアイツの姿を探した

だがアイツは居ないようだった、無駄足だったか

「お待たせしました」

『あぁどうも』

やってきたパンケーキは美味しそうな香りを漂わせ、自然とヨダレが溢れてきた

ナイフで切込みを入れるとフワフワとしていて、切り口にメイプルシロップが流れ込んでいく

1口頂けば甘いシロップの味が口に広がった、これは美味い

『ふむ、美味しい』

どことなく懐かしい味がした

昔、水木が作ってくれたパンケーキと同じ味がした
あの時は彼奴も育児初心者でまともに飯も作れてなかった

最初のパンケーキだって酷かった、まっ黒焦げで、ふわふわどころかカリカリじゃったわ

『…懐かしいわ』

彼奴と別れてからもう何十年と経つ、流石に忘れてしまったかの

気づけば平らげていたパンケーキ、口を拭ってお会計に行った

会計を済ませ店を出ていこうとした時だった

「ちょいといいですか、お姉さん」

『む？わしか…』

声のした方に顔を向けた

「これ、良かったら持っていってください」

『あ』

左目と左耳の傷、

あぁ、生きておったのか

『ありが、とう』

「…また、お越しください」

『…あぁ、次は息子も連れてくるとしよう』

「それは楽しみだ、待っているよ」

わしのことに気づいていたのか否か、どちらにせよ出会えてよかった

貰った紙袋の中には少しいいお茶と、メイプルシロップが入っていた

『…お主がパンケーキを作らねば意味が無いだろう』

阿呆が、と笑いながら紙袋を抱きしめる

微かに香ったのは、彼奴がよく吸っておったタバコの香りだった