九話 あの頃から ページ10
朝から体調がすぐれなかったことにした。
ドフィは私のことを心配して側にいようとしたものだから、強引に取引へ向かわせた。
ベビー5はすごく残念そうだったけど、お土産をたくさん買ってくると約束してくれた。
少なからず嘘をついたことに罪悪感を感じたが、それでも試す価値があると思ったから。
もし本当にこのまま変わるのなら、私が収穫祭に行かなかったことで大きく変化するのは明確だった。
ロ「A、寒くないか？」
ローは心配そうな表情を浮かべながら、小さな手で私にブランケットをかけてくれた。
『ありがとうロー。貴方は本当に優しくていい子ね。』
ローの白い手に自分の手を重ねる。
恥ずかしそうにしながらも、ぎゅっと握り返してくれる。
きっと、白鉛病なんてなかったら、この子はもっと幸せな人生を歩むことができていたはずなのに。
大切なものを全て奪われて、全部壊したいと言っていたローの目は本当にこの世の地獄を見た目だった。
私はそのまま目を閉じた。
ーーーーーーーーーー
『はじめまして！ローっていうのね！すごく素敵な名前だわ！私、Aって言うの！困ったことがあったら何でも私に聞いてね！』
ロ「……」
『ロー！貴方もこっちにいらっしゃい！今日のお菓子は力作よ！』
ロ「……」
『ロー！ねぇローってば ロ「うるせぇよ！」
『やっと口をきいてくれたのね！嬉しいわ！』
ロ「…っ俺はオマエみたいに仲良しゴッコをするためにここに来たわけじゃねぇんだよ！俺に構うな！！」
『………』
ロ「だいたい俺はオマエらのことを家族とも何とも思っちゃいねぇ！」
『……ロー…』
ロ「分かったらさっさと向こうに行けよ！」
『……そうやってまた自分を傷つけるの？』
ロ「…っ」
『ロー、貴方は本当に優しい子だわ。ここ数ヶ月でよくわかった。きっと貴方にここは似合わない。それでもここにいるのだから、私は貴方の助けになりたいの。ドフィもそう。私がいることで少しでも彼の傷を癒せるならそれでいい。だからロー、一人で抱え込まないで？人生って素晴らしいのよ！』
ーーーーーーーーーーー
目を開けると見慣れた天井。
左手に違和感があって見るとローの手があった。
『！ふふふ、私が寝ちゃったから動けなくなっちゃったのね、優しい子』
そのまま寝てしまっているローの頭を撫でる。
『ロー、私はあの頃から少しでも貴方の助けになれているのかしら』
そんな私の言葉は部屋に響いて虚しく消えた。
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作者名：もえぎ | 作成日時：2022年11月3日 19時
