三十八話 笑顔 ページ39
何の迷いもなく引き金を引いた。
さっきまでうるさく喋っていた男はピクリとも動かない。
俺はAに自分のファーコートを脱いで被せ、拘束を解いてそっと抱き起こした。
ド「確かに、オマエはバカだな、A」
オマエはあの時、俺にコイツらを殺してでも連れ出してくれと頼むべきだった。
誰も傷つく姿を見たくないといいながら、結局自分が一番傷つくことになる。
白い手首についた痛々しい赤い跡をなぞる。
すると閉じられた目からツーっと涙が溢れた。
俺はAを優しく抱えて、部屋を出た。
もう動かない男の死体がじっとこっちを見ていた。
Aの部屋のベッドに彼女を寝かせて、布団をかける。
すぐに部屋を出て行こうとした。
ここにいる奴等全員、殺さないと気が済まなかった。
だが、服の裾を掴まれ、動きを止められた。
『ダメ…殺さないで』
消え入りそうな声で懇願するA。
俺の服の裾を引っ張っている手も、容易に振るほどけるほど弱々しかった。
『お願い…ドフラミンゴ様…』
ぼろぼろとAの目から溢れてくる涙の意味は、俺には分からない。
ド「あぁ、わかった、いかねぇよ。」
Aの涙を掬う。
ド「A、俺たちはもう家族だ。ドフィでいい、敬語もいらねぇ。朝一にここをでる」
でないと、オマエの前でアイツらを殺しちまいそうになる。
『ごめんね…ドフィ』
Aが何に謝ったのか、俺には分からなかった。
すぐに深い眠りへと落ちた彼女の目元に、そっとキスを落とした。
『わー！すごい！大きな船！』
港に着くと俺たちの海賊船を見て目をキラキラさせる。
ド「転ぶなよ、A。海に落ちても俺は助けてやれねぇからな」
『ドフィ』
Aが俺の手をそっと握る。
『私、本当にドフィたちの側にいていいのかな』
俺は風になびく彼女の黒髪を一掬いし、ニヤリと笑う。
ド「オマエこそ、いいのか？俺はオマエが嫌と言っても手放してやらねぇぞ？」
するとAは満面の笑みを浮かべながら、俺を見上げる。
朝日に照らされた青い目が海のように美しく輝いている。
『ありがとう、ドフィ』
そう言った彼女は、何よりも綺麗だった。
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作者名：もえぎ | 作成日時：2022年11月3日 19時
