三十七話 銃声 ページ38
俺は先にAの部屋を訪れた。
Aはいなかった。
本が一冊、床に落ちていた。
俺はそれを拾い上げる。
乱暴に落とされたようでページが折れた状態になっていた。
部屋の電気もついたままだった。
Aは丁寧な奴だ。
俺が急に訪ねるとたいてい仕事で部屋にいないが、物はきちんと整頓され、電気を消し忘れたところを見たことはない。
時々Aが部屋にいる時があるが、その時は決まって本を読んでいて、俺が声をかけるまで気づかない。
俺の元へ来る時は読んでいた本に栞を挟んで、そっと閉じる。
胸騒ぎがした。
俺は本を机に置き、ボーイの言った部屋へ向かった。
カジノの会場とはかけ離れた静かな階にその部屋はあった。
ノックもせずに取っ手に手をかけ開けようとする、が、鍵がかかっていて開かない。
俺は何の躊躇なく、扉を蹴破った。
一番最初に視界に入ってきたのは高級そうな椅子に腰掛けてワインを飲んでいるオーナー。
そして次に視界に飛び込んできたのは、大きなベッドの上で両手を縛られ何も身につけない状態でぐったりと横たわるAだった。
「これはこれは、ドフラミンゴ様。何か用ですかな？」
青筋を浮かべる俺とは反対に、あっけらかんとしながらオーナーはワインをまた一口飲む。
ド「Aに何をした」
「何をしたも何も、コレは私の所有物。私が何をしようが貴方に関係ありますか？」
オーナーはグラスを置いて立ち上がり、ベッドの方へ向かう。
そしてアイツの汚い手がAの白い肌に触れる前に、俺が後頭部に銃口を押し付けた。
「ハッハッハ！随分とお怒りのようですな！何てことありませんよ、ただ躾をしたまでだ。今までも泣くことはあったが今日ほど抵抗されたのは初めてだったので、少々やりすぎましたかね？気絶ですよ！私の下で鳴きながら、貴方の名前を呼んでいましたよ？それが余計に私の機嫌を損ねると、バカなコレにはわからなかったのでしょうな、ハッハッハ！」
バンッ
乾いた銃声が部屋の中に響いた。
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作者名：もえぎ | 作成日時：2022年11月3日 19時
