三話 愛憎 ページ4
さっき鏡で確認した自分の姿はいつもと何ら変わりなく、まして泣いた跡などなかったのに。
ド「何かあったのか、それなら全部俺に話せ。
オマエを泣かすモノは俺が全部消してやる」
そう言いながら顎にあった手を私の頬に移動させて優しく撫でる。
まるで割れ物を扱うように丁寧に、優しく。
『ありがとう、ドフィ。何でもないの。ただ、ちょっと怖い夢を見ただけ』
頬にあるドフィの大きな手に自分の手を重ねながら微笑んだ。
ド「昔の夢か？」
『ええ、そんなところよ』
ド「まだ忘れられねぇのか」
真面目な顔のまま、空いてる方の手で私の髪に指を通す。
胸まである私の真っ直ぐの黒髪がドフィの指からサラサラとこぼれ落ちる。
『大丈夫よ、ドフィ。たしかにまだ忘れられないし時々夢に見ちゃうけど、今の私にはドフィや皆がいるもの。ちゃんと幸せよ』
ドフィは私がそんなことを言うとは思っていなかったようで、呆気に取られていた。
ド「どうした、A。今日はやけに素直じゃねぇか」
『失礼ね。私にだってそういう日もあるわ。』
実際、ドフィに拾われていなかったら私はとうに死んでいただろう。
ドフィのおかげでこの容姿も好きになれたし、生きることが楽しいことなのだと知ることもできた。
私に生きる居場所をくれた貴方。
ロシィを殺そうとした貴方。
どちらも同じドフィで、憎むべき存在なのに、私は優しい貴方もたくさん知っているから、だからあの時も、ドフィが本当にロシィに向かって引き金を引くとは思わなかった。
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作者名：もえぎ | 作成日時：2022年11月3日 19時
