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小泉と別れてから、自分の執務室の前に立つ。扉横に嵌められた電子パネルにバッジを翳すと、解錠音が耳に入る。
ノブを捻り、室内に入る。川端が居ない間は、養い子が週に一度片付けに来てくれているらしい。通話の時にそう云っていた。彼のバッジで此処の認証は抜けられる様に登録してある。
中は清潔で、六年前から何一つ変わっていなかった。染み一つ無い真っ白な壁に、濃茶のフローリングと紺色の絨毯。マホガニー程では無いがそこそこ上等な執務机と革張りの椅子に、ぎっしりと詰まった本棚が二つ。一定のリズムを刻む振り子時計に、応対用兼休憩用の革張りのソファ。奥には仮眠室も備え付けられている。
両開きの窓を開けると、緩く風が吹き込んで白いレースカーテンが揺れる。紺色のカーテンは両サイドで纏められている。此方にも染みは一つも無い。養い子が丁寧に掃除してくれている事は、一目見るだけで十分判った。
執務机に近付き、抽斗の鍵穴に懐から取り出した小さな鍵を挿し込む。くるりと回せば、軽い解錠音が耳に入った。
鍵を抜いて抽斗を開ける。中に入っているのは、他所の構成員の様に重要書類や金銭類と云う訳では無い。書類は記憶すれば燃やしているし、金銭類は先ず執務室には置かないからだ。
中に仕舞っていたのは、一枚の写真のみだ。少し古びているが、未だ色褪せたり皺になったりはしていない。
其処に映った人間を見て、川端は目を細める。
「…………恨み言の一つや二つ、云ってやりたいのに……お前が居ないんじゃ、意味無いじゃねえか……莫迦……」
写真には二人の男が並んで映っている。背景は温泉地らしく、浴衣姿だ。深い赤色の短髪に紅玉色の瞳を持つ男が、青がかった銀髪に水宝石色の瞳を持つ男の肩に手を置いて、開いた扇子片手に笑っている。
水宝石色の瞳の男は、写真の中で誰が見ても判る程に微笑んでいた。普段の無表情とは打って変わって、本当に嬉しいのだと判る笑みだ。
二度と会えないと理解しているからこそ、これを見る度に苦しい。成る可く見ない様に、誰の手にも触れない様に、川端は写真を抽斗に戻して鍵をかける。
もう一度だけ、ぐるりと室内を見回してから、踵を返して部屋から出ていく。
センサー式の照明が、人の気配を見失ってふつりと消えた。
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名無しのチート(プロフ) - アカツキさん» ありがとうございます!(*´ω`*)ムシャムシャ← (2020年5月15日 22時) (レス) id: 6216eeef7c (このIDを非表示/違反報告)
アカツキ(プロフ) - 名無しのチートさん» いえいえ、こちらこそ素敵な子達をお貸し頂いてありがとうございました! こんな拙い文章力で良ければ……( *・_・*)っ【文章力の欠片】 (2020年5月15日 22時) (レス) id: 5ad838b917 (このIDを非表示/違反報告)
名無しのチート(プロフ) - ありがとうございますっっ!!(文才力が欲しい...!)どんどんうちの子達使っちゃってください! (2020年5月15日 22時) (レス) id: 6216eeef7c (このIDを非表示/違反報告)
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