鬼灯の様な男【H・C・アンデルセン】 ページ11
*
アンデルセンは知っている。自分の恩人が偽りだらけである事を。
本人の口から聞いた事があるものも幾つかある。例えば口調の話であったり、表に見せる性格の事であったり、様々な人間に対して見せる表情であったりする。
けれど、本人が云わないものだって、アンデルセンは何となく察しているのだ。ふとした瞬間に見せる、あの暗く淀んだ目の事を。
アンデルセンを信頼していない訳では無いのだろう。其処に関しては、アンデルセンは彼を疑わない。彼が自分を大切に想ってくれているのも、守ろうとしてくれているのも、アンデルセンは知っている。
けれど、それとこれとは違うらしい。
誰にだって、触れられたくない部分はあるだろう。アンデルセンにだって無論ある。けれど、自分のそれは彼に打ち明けられるものであるし、そう云う意味では、彼に対して隠している事は無い。
然し、彼はそうでは無いのだ。アンデルセンが彼に全てを打ち明ける様には、彼は出来ないのだ。それが酷く悔しい。
ランタンの中で揺らめく灯火を眺めて、アンデルセンは溜息を吐く。今この場に恩人はおらず、遠い異国の地で潜入任務に励んでいる事だろう。
彼が何かを無くした事は、薄々理解している。それを、絶対にアンデルセンに打ち明けない事も。それが彼にとっての「触れられたくない部分」なのだから、仕方が無い。
けれど、自分の脆さを誰にも見せられないと云うのは、酷く苦しい。独りで戦い続けなければならないと云う事だから。
助けたいと思うけれど、自分では役不足だと自覚している。きっと、この世に生きている誰もが、彼の「心」に触れるには役不足だ。彼自身がそう明言せずとも判る。子供と云う生き物は、そう云った事柄には敏感なのだ。
「ねぇ、ヤスナリさんの大事な人。君は、もう死んじゃってるんでしょ……?」
虚空に向けて呟く。当然返答は無い。それでも善かった。ただ、心の中の靄を吐露したいだけだから。
「お願いだからさ、これ以上ヤスナリさんを悩ませないであげてよ。死んじゃった君を恨みやしないけど、苦しんでるヤスナリさん見るのはぼくが辛いんだ」
ねぇ、お願いだから。
かたかたと窓枠が揺れた。外は強風が吹き、木々が木の葉をざわめかせている。遠雷は聞こえてこない。雨は降らない予報だが、この調子だと如何だろうか。
一瞬だけ、日射しが部屋に射し込んで、直ぐに消えた。
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名無しのチート(プロフ) - アカツキさん» ありがとうございます!(*´ω`*)ムシャムシャ← (2020年5月15日 22時) (レス) id: 6216eeef7c (このIDを非表示/違反報告)
アカツキ(プロフ) - 名無しのチートさん» いえいえ、こちらこそ素敵な子達をお貸し頂いてありがとうございました! こんな拙い文章力で良ければ……( *・_・*)っ【文章力の欠片】 (2020年5月15日 22時) (レス) id: 5ad838b917 (このIDを非表示/違反報告)
名無しのチート(プロフ) - ありがとうございますっっ!!(文才力が欲しい...!)どんどんうちの子達使っちゃってください! (2020年5月15日 22時) (レス) id: 6216eeef7c (このIDを非表示/違反報告)
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