時計の針が示す先【CS/派生作品】 (ページ39)

今日:1 hit、昨日:1 hit、合計:3,298 hit

▼ ページ39

*

女性物を取り扱うブティックではあるが、男であるアンデルセンとダーレスが中に入っても、誰も不思議な顔も否定的な目もしなかった。アンデルセンは先ず女性物の服だし、ダーレスも中性的な顔立ちな為、男だと思われなかったらしい。喜べばいいのか、悲しめばいいのか。

きょろきょろと店内を見回したダーレスは、一寸選んでくる、と云って奥の方に進んでいった。一人残されたアンデルセンは、取り敢えず目的である自分の私服を選ぶ事にする。

濃紺のフリルブラウス。ラベンダー色のフレアスカート。純白のロングワンピース。
ゆるりと物色しながら歩き回るが、如何にもいまいちピンと来ない。

悶々と悩んでいると、ダーレスが何やら服を抱えて戻ってきた。店内で走らないでくれ、他の客の目が痛い。

「ねぇねぇアンちゃん！これ着てみて！」

「え、っと……？ダーレスくんが着るやつじゃないの？」

「違うよ？アンちゃんに似合うかなぁって思ったから持ってきてみた！ほら、あっちに試着室あるから！」

問答無用で服を押し付けてくるダーレスに、渋々ながら肯いて試着室に向かう。決して周囲の好奇の目が辛かった訳ではない。断じて違う。

着ていた服を脱ぎ、ハンガーに掛ける。渡された服をハンガーから外して、慣れた手つきで身に纏う。昔から容姿が女そのものだと云われていた為、開き直って女性物を着始めたのが5歳の時だったか。11年も着続ければ流石に慣れもするだろう。

ちゃんと着られたのを鏡で確かめ、試着室のカーテンを開ける。
その前でうきうきとした表情で待っていたダーレスは、アンデルセンの姿を視界に入れてきゃあと叫ぶ。

「やばぁい！可愛い！これはボクも天使と云う存在を認めなくてはならないのかもしれない！あぁ、みんながメロメロになっちゃう!! アンちゃんの魅力にみんな失神しちゃうぅ!!」

「何云ってるの、頭大丈夫？」

真顔で辛辣な発言をするアンデルセンにも反応せず、否、そもそも声が聞こえていないらしい、兎も角無視してはしゃぎ続けるダーレスは、明らかに目立っていた。それはもう目立ちまくっていた。

アンデルセンが着ているのは、藤色の襟とリボンがアクセントの黒いミモレ丈のオフショルダーワンピース。ふわりと広がった裾が優雅さを演出し、華奢な手足を映えさせている。ちらりと覗いた白い滑らかな肩は、如何見ても男のものでは無かった。