時計の針が示す先【CS/派生作品】 (ページ38)

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軈て着いたショッピングモールは、ある程度減っているとは云え未だに多くの客で満ちていた。通路のクリーム色の床は六割が人で隠され、出店している店舗は何処も盛況していた。

「何処から行こっか？アンちゃんは行きたいとこある？」

「そうだね……矢ッ張りブティックかな。新しい服が見たいんだ」

「善いねェ、ボクも見たい！えぇっと、ブティックは四階だね。行こっ！」

マップの記されたリーフレットを手に、ダーレスが飛び跳ねそうな勢いで駆け出す。その後を慌てて追い掛ける。

慣れているとは云え、スカート且つヒールの高いブーツで走るのは少し辛いものがある。歩く分には平気だが、ヒールは走ると下手をすれば捻挫するのである。あれは痛かった。

今の時間帯では珍しく無人の昇降機(エレベーター)に乗り込み、四階の釦を押す。大きな揺れも音も無く上昇していく昇降機に、ダーレスは体を揺らして上機嫌だ。

ふと背後の鏡張りの壁を見遣る。片や、現代離れした、それどころか異世界じみた様にも感じる真っ白なローブ。片や、仕事着で無いとは云え、普段着にするには少し異常なゴシック様式のワンピース。違和感しか無い。自分一人でも奇異の目はあるのに、ダーレスも一緒だと更に拙そうだ。……出来る限り周りは無視しよう。自分の精神の安寧の為に。

電子音が鳴り、昇降機の扉が開いた瞬間、ダーレスはアンデルセンの手を掴んで走り出す。

「ち、ちょっと、走んないで！転けそう！」

「ふふふっ、大丈夫！善いから早く行くよぉ！」

否、ダーレスが大丈夫でもアンデルセンが大丈夫では無いのだが。
此れはもう止めようが無い、と諦めたアンデルセンは、転ぶ等と云う恥ずかしい真似を絶対にしない様に足元に集中した。

突然ダーレスが立ち止まる。危うく背中にぶつかりそうになり、何とか急ブレーキをかける。本当にぶつかる寸前だった。

「着いたよ、ブティック！」

「嗚呼、うん、見れば判るけどね。急に止まんないで……」

「ねっ、早く入ろぉ！」

「話聞かないね……」

肩で息をしながらダーレスを見遣れば、彼はきらきらと目を輝かせて年相応に楽しそうだった。普段の嫌味な笑みではない。

その笑顔見たさで彼の誘いに付き合っているのは、本人には秘密である。

今度は走らなかったダーレスに手を引かれ、シックな外装のブティックの扉を潜った。