時計の針が示す先【CS/派生作品】 (ページ25)

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メッセンジャーに何を思う【川端康成】ページ25

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幸い、その日は休暇を与えられていた。長らく取っていなかった有給休暇がかなり溜まっていたらしい。直属の上司である中原に叱られ、首領にもやんわり注意され、部下には嘆かれ悲しまれ。その結果、仕方無く三日分有休を消化する事にしたのだ。

大体、中原とて尾崎や首領に云いつけられていなければ自分と同類だというのに、何故ああも上から目線で云うのだろうか。背は20センチ以上低い癖に。

閑話休題。

休暇を取っていて何が幸いかと云うと、目の前で人を食った様な笑みを浮かべて話し続けるこの少年の事だ。

「ねぇ、今日もダメなの？あんなに素敵な異能力を持ってるキミが狂気に陥るのが見たいのに！わくわく。きっととても素敵だよ！ねぇ、如何してもダメ？一寸だけだから！」

色素の抜け落ちた真っ白な髪に、満月をその儘嵌め込んだ様な瞳。現代人らしからぬ真っ白なローブを身に纏った少年は、名をオーガスト・ダーレスと云った。同じ組織に所属する同僚であり、『死の家の鼠』に潜入しているスパイ。そして、何よりも狂気を愛する少年だ。

彼は、川端の異能空間から生きて帰還した数少ない人物の一人である。しかも、川端が解除したのではなく、自力で。自力で生き延びた人間など、現時点ではダーレス一人のみだ。その後、彼が普段から発狂している様な人間だと判る迄は、ダーレスが酷く恐ろしく見えたものである。

それ以降、ダーレスは川端の異能力を酷く気に入った様だった。そして、その異能力を有する川端の事も。だからこそ、こうして川端を発狂させようと執拗く勧誘している。毎度の事だが、諦めを知らないその姿勢には呆れを通り越して感嘆すら覚える。

街中の少し洒落た喫茶店。窓辺の二人がけの席の向かいで、テーブルに肘をついて笑んでいるダーレス。彼と出会った時には何時もこの会話から始まる。

「……前にも云ったけど、お断りだよ。任務に支障が出るし、未だ真面な人格者で居たいから……。まあ、俺が本当に真面か如何かなんて、判りはしないんだけど……」

「えぇぇ、残念だなぁ。本当に残念。まぁ諦めないけどね。次も誘うから！ふふっ」

「大丈夫、次も断るから……」

最早挨拶と化したこのやり取りは、実際何の意味も持っていない。
初めから断られる事が判っていて誘うダーレスと、誘われる事が判っていて逃げようともしない川端。
結局のところ、ただの遊びと同義になっているのが現状だ。