HERO【石川祐希】 (ページ23)

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「じゃあ、俺先に行くね」

「うん、いってらっしゃい」

照れたように笑うと祐希くんは
私の方に右手を差し出した。

「これ、うちの合鍵」

悪い気もするけど
私が後から出るのだから必要だ。

「ありがとう。後で返すね」

なくさないように大事にポケットにしまう。

「場所は大丈夫だよね？」

「大丈夫！祐希くん心配しすぎ」

私が試合を見に行くと決まってから
祐希くんは試合会場のスタジアムの場所や
関係者席への入り口や
スタッフになんて言って入ればいいのかを
しつこいくらいに確認していた。

「じゃあ、行ってくるね」

「いってらっしゃい」

「気をつけて来てね」

手を振りながら見送ると
パタンと扉が閉まる。

いったん鍵をかけようとドアに近づくと
すぐにまたドアが開いた。

「あっぶな！忘れるとこだった！」

忘れ物でもしたのかと思っていると
祐希くんはジャージのポケットから
スマホを取り出した。

「連絡先、知らなかった」

そう言われてはっとした。
午後から一緒に出かけるのに
連絡先を知らないのでは待ち合わせもできない。

私もスマホを取り出して
無料通話アプリの連絡先を交換する。

「私も忘れてた。ありがと」

「じゃあ今度こそ、ほんとに行ってきます。
　いつ解散できるかわかんないから
　その頃にまた連絡するね。」

「わかった、いってらっしゃい」

もう一度お見送りすると
今度はちゃんと遠のいていく足音が聞こえた。

私もメイクをしたり準備をしていると
ちょうどいい時間になった。

お借りした伊達眼鏡と
自分の持っていた帽子をかぶって家を出た。