シンデレラにはなれない ５【登坂広臣】

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一度だけ、琴音が作った料理でものすごく好みでめちゃくちゃ美味いのを食べたことがあった。

それは肉じゃがで。

味が俺好みで、普通は入ってないような片栗粉が入ってとろみがあって食べやすくなっていて、甘くてめちゃくちゃ美味しかった。


水を入れすぎて少しべちゃついたご飯がいつもの倍進むくらいに美味しくて、べた褒めをして腹破裂するんじゃねぇかってくらいお代わりを何回もした。

結果、鍋の底が見えるまで食ってた。




登坂｢これ、マジで美味い｣

柚木｢……ほんと？良かった｣




何故か悲しそうに笑った琴音だけど、全然気にならないくらいに肉じゃがに夢中だった。

何かに、しかも食べ物に夢中になることは普段はないしこんなに美味いもん食ったこと無かったから初めての感覚だった。




登坂｢これ、また作ってな｣




そう言った俺に曖昧に笑ってまた今度ねって言った琴音に俺は────────気づかなかった



これはまだ、俺とAが出会う前の話。




ああ、思い出したら久しぶりに琴音の肉じゃが食いたくなってきた。

俺はあれ以来他の肉じゃがを食えなくなって、琴音のが一番だと思ってるから他のが不味く思える。


本当にそれくらい、美味しかったんだ。




登坂｢琴音、またあの肉じゃが食いたい｣

柚木｢……うん、また今度ね｣




あの肉じゃが食うまで、別れらんねぇなって思ってしまったんだ。









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